核融合への投資、世界で60億ドル突破。加速する産業化の波に日本はついていけるのか？

FIAで把握できている限り、1億ドル以上の大型投資を実現できたのは米国のTAE Technologiesと中国のENNの2社のみ（中国でさらに大型の投資に関する報道があったというが、真偽が確認できず報告書への記載は見送られた）。その代わりにこの1年で増えたのが、アーリーステージの核融合スタートアップに対する小規模な投資だ。

FIAでは昨年の調査以降に発表された注目の投資事例として10社の名前を挙げている。その中には、上記2社と共に日本の京都フュージョニアリングも名前を連ねていた。

ただ、研究開発に進展がみられたり、投資規模が拡大し続けていたりするとはいえ、核融合産業はまだコンセプト（核融合炉による発電）の実証が完了していない技術だ。この先、核融合を本当に産業化していくには、引き続き大型投資が必要になってくる。

実際、核融合産業に携わる企業たちは各々の手法でコンセプト実証する装置を建設するために、大規模な資金を必要としている状況にある。

FIAは報告書で、

｢業界の継続的な成長を支えるために、企業は、異なる資本プールを持つ新たな投資家を呼び込むことで、起こりうる『死の谷』を越える方法を見つけなければならないだろう｣

と指摘している。

なお、この1年間で新たに核融合産業に参入する企業も増えてきた。

今回の報告書では、核融合産業のプレーヤーとして合計43社の名前が挙がっている。昨年から13社が新たに加わり、3社が廃業（ただし技術は移転済み）したという。

日本からは、前述した京都フュージョニアリングに加えて、核融合科学研究所の技術を生かしたヘリカル型と呼ばれるタイプの核融合炉の建設を目指すHelical Fusionと、高出力レーザーを用いたレーザー核融合炉の実現を目指すEX-Fusionの3社が名を連ねた。

核融合炉はいつ実現できるのか？課題は山積み

実際にいつごろ核融合炉による発電は実現できるのか。

2028年に核融合炉で発電した電力をマイクロソフトに販売する契約を結んだヘリオン・エナジーはかなり野心的だ。とはいえ、世界の核融合スタートアップはそれぞれ、核融合炉の実現に向けたタイムラインを敷いている。

FIAの報告書には、43社中25社が2035年までに最初の核融合プラントを開発し、送電網への電力供給を検討しているとある。

ただ、核融合炉を商業利用するまでには、技術的に解決しなければならない課題は多い。資金をかけてスケールアップするだけ、という単純な話でもないため不確実性が残る。

報告書でも、｢大半の企業が、核融合の出力効率の達成、プラズマ科学の解決、熱管理に関する技術的な科学と工学の課題がまだ多く残っていると述べている｣と、技術的な課題があると指摘する。他にも核融合炉の燃料となるトリチウム（三重水素）の確保を2030年までの大きな課題として挙げる企業も多かった。

一方でFIAは、現状で核融合炉の実現を目指している各企業の技術について｢競合している企業がほとんどない｣と言えるほど多様性があるとも指摘している。

現時点ではどの企業のコンセプトが上手くいくのか分からない状況であるため、技術の多様性を持ち続けることは核融合の実現に向けたリスクヘッジになっていると言える。

もちろん研究開発の道半ばでうまく資金が調達できなくなると、多くの企業が掲げる｢2035年までの実現｣は難しくなる。技術的な課題の解決は、研究開発費の安定的な確保と強く結びついているわけだ。

また、技術的な側面から重要なマイルストーンとされている国際プロジェクト｢ITER｣計画の進捗が遅れている点も気がかりだ。

ITERは日本やアメリカなど、フランスで建設中の実験炉で、当初、2025年に試験運転を開始（ファーストプラズマを実現）する計画となっていた。ただ、コロナ禍でのサプライチェーンの混乱や、主要パーツに欠陥が見つかったことなどが影響し、現在スケジュール��遅延や追加コストについて議論が進められている。

日本でも核融合戦略を策定。技術検証も進む

日本では、この4月に核融合に関する初の国家戦略｢フュージョンエネルギー・イノベーション戦略｣を策定した。また、国内の核融合スタートアップや公的な研究機関の間でも、資金調達状況や研究開発状況に動きがみられている。

例えば、京都フュージョニアリングはこの3月に英国原子力公社（UKAEA）と連携協定を、カナダ原子力研究所（CNL）とMOUをそれぞれ結んだことを発表している。海外の有力研究機関と連携することで、国内のリソースでは限界がある核融合炉のコンポーネントの研究開発を加速しようとしている。

加えて、Helical Fusionは4月に約8億円の資金調達を、EX-Fusionも7月に18億円の資金調達を発表。どちらもシードラウンドの調達ではあるが、確実に研究開発を進めている。

またこの5月には、茨城県那珂市にある量子科学技術研究開発機構の那珂研究所で、ITERと補完的な技術検証を担う実験装置｢JT-60SA｣の統合試験運転が始まった。

核融合反応を実現するには、燃料となる重水素などの原子を原子核と電子に分離したプラズマの状態にした上で衝突させる必要がある。

JT-60SAは｢トカマク型｣と呼ばれる核融合炉を模した実験装置だ。このタイプの核融合炉では、非常に高いエネルギーを持った（高温の）プラズマを磁力で制御して炉内に閉じ込めておく必要がある。今回の統合試験では、2023年の秋を目処に炉内に磁力（正確には磁場）を使ってプラズマを閉じ込めた状態を実現する｢初プラズマ達成｣を目指す（なお、JT-60SAでは実際の燃料を使わないため、核融合反応は起こさない）。

那珂研究所の東島智副所長は、Business Insider Japanの取材に対して、JT-60SAの目的について、

｢フランスに建設中のITERの支援研究、その次に発電を行う原型炉DEMOのための先端的な運転手法の開発、ITER実験を主導できる研究者・技術者の育成です｣

と説明する。ITERで不足している技術的な検証に加えて、これからも続くことが期待されている核融合産業に従事する人材を育成するための重要な側面があると語る。

次の国際プロジェクトとして核融合炉による｢発電の実証｣が目的とされている｢原型炉DEMO｣は、ITERよりもさらに巨大な装置になることが想定されている。

｢これまでは装置を大きくすることによりプラズマの性能を向上させてきたわけですが、それに基づくと、DEMOはITERよりかなり大きくなってしまいます。この解決には、炉心であるプラズマの性能を上げれば良いわけです。核融合炉の出力はプラズマの圧力の二乗に比例します。JT-60SAでは、プラズマ圧力を上げるととともに、そのために困難となるプラズマの制御手法を開発することが重要な目標です｣（東島副所長）

実は、JT60-SAの統合試験運転は2年前にも一度実施している。ただ、当時は途中でトラブルが発生し、中断することとなった。今回の統合試験運転では、当時未実施だった検証を進めていきながら、秋の初プラズマ達成を目指す。

東島副所長によると、｢統合試験運転は、現在、順調に進展しています｣という。