人気爆発「日本発イチゴ」、アメリカ巨大工場が稼働。収穫量20倍に拡大

oishiifarm koga hiroki ceo

メガファーム稼働について、オイシイファーム共同創業者兼CEOの古賀大貴氏は「植物工場がビジネスとして成立することを世界に示す、非常に大きな金字塔になる」と語った。

撮影:湯田陽子

ニューヨークで「日本のイチゴ」ブームを巻き起こしているオイシイファーム(Oishii Farm)が、販売エリア拡大に向け、生産能力を20倍に増強する。

同社は6月4日、アメリカ・ニュージャージー州で新たに世界最大級の植物工場「メガファーム」を稼働させ、生産を開始したと発表した。

太陽光の届かない完全閉鎖型の植物工場は、天候に左右されないことから、世界中で注目が集まっている。

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完熟したタイミングで自動収穫

メガファームの敷地面積は、サッカーコート3面分以上に相当する2万2000平方メートル。旧プラスチック工場をリノベーションした工場内には、巨大な「農場ユニット」にラック型の栽培棚がずらりと並び、ブルーのロボットアームがイチゴを一つひとつ収穫するという。

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イチゴ一粒一粒の成長を正確に把握し、完熟したタイミングでロボットが自動で収穫。傷つけないよう、トレーにそっと載せていく。

提供:オイシイファーム

「このメガファームは、植物工場が完全にビジネスとして成立することを世界に示す非常に大きな金字塔になる」

そう語るのは、オイシイファームの共同創業者兼CEOの古賀大貴氏だ。

「これまで人が行ってきた収穫作業をロボットに切り替え、イチゴが完熟したタイミングを見計らって自動で収穫するなど、ロボットやAIによる自動化が進化した。

2年前に稼働した既存の工場と比べ、生産性が飛躍的に向上しました」(古賀氏)

今後、メガファーム内の農場ユニットを順次稼働し、従来比20倍の収穫量に拡大する。ニューヨークを中心とした現在のエリアからアメリカ東海岸全域に販売を広げていく考えだ。

「需要が多すぎて生産が追いつかない」

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旧プラスチック工場をリノベーションして作られたメガファーム。敷地面積はサッカーコート3面分以上の2.2万平方メートル。

提供:オイシイファーム

太陽光の届かない完全閉鎖型の植物工場は、天候に左右されず、「電力と水さえあれば世界中どこでも、完全無農薬の果物や野菜を、一年中安定して育てることができる」(古賀氏)。

異常気象が各地で相次ぎ、人口が爆発的に増えるなか、迫り来る食料危機問題を解決する手段として、植物工場への期待が世界的に高まっている。

しかし、受粉が必要な実の成る作物を量産化かつ収益化するのは極めてハードルが高く、成功しているのは世界でもオイシイファーム1社だけ。

2010年代半ばに世界的な植物工場ブームが始まったものの、欧米の競合他社はいずれも受粉不要で単価の低いレタスなどの葉物しか商品化できず、資金難で破綻・撤退が相次いでいる

次々と脱落する競合を尻目に、オイシイファームは高級イチゴの量産化に成功し、「儲かるビジネスモデル」を確立した。2024年2月には日本の企業・政府系ファンドを中心に国内外の投資家から総額200億円超もの資金を調達するなど、植物工場で世界トップに躍り出た。

背景にあるのは、他社の追随を許さないテクノロジーだけではなく、もちろんその味の良さだ。

「イチゴは固くて酸っぱいもの」というアメリカの常識を覆すおいしさがニューヨーカーに衝撃を与え、「需要が多すぎて生産が追いつかない」(古賀氏)ほど引き合いが殺到しているという。

水の大半を循環利用、メガソーラーで発電

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大規模な水循環システムを新たに開発し、使用した水の大半を再利用できる仕組みを構築した。

提供:オイシイファーム

旺盛な需要に応えるために新設したのが、今回のメガファームだ。

「これほど大規模かつ自動化を実現した植物工場は、世界で例がない」(古賀氏)ことから、CNBCやCNNなどアメリカのメディアも注目し、取材の打診が相次いでいるという。

メガファームでは同社が重視する「サステナブルな農業の仕組み」を進化させるため、植物工場に欠かせない水と電気についても新たな策を導入した。

「数億円を投じて新たな水循環システムを導入し、使用した水の大半を再利用できる仕組みを構築しました。非常に大規模なシステムを独自に開発した」(古賀氏)

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メガファームの隣には巨大な太陽光発電所(メガソーラー)が。ここで発電された電力を全量購入し、メガファームで使用している。

提供:オイシイファーム

植物工場では、イチゴの苗だけでなく、受粉の担い手「ハチ」にとって居心地のいい環境を整えるため、温度や湿度、二酸化炭素、光、風などあらゆるパラメータをコントロールして自然環境を再現しなければならない。

そのためには膨大な電力が必要だが、それがコストを押し上げる一因にもなっている。ただ、化石燃料で発電した電力を使うのではサステナブルとは言えない。

そこでオイシイファームは、メガファームに隣接する東京ドーム約5個分の土地に広がる巨大な太陽光発電所(メガソーラー)で発電された電力を全量購入することにした。

「現在は、隣接する太陽光発電所から供給される電力でほぼ100%まかなっています。今後、農場ユニットの稼働範囲を広げていくにしたがって不足する分は、グリーングリッドから自然エネルギーを購入する予定です」(古賀氏)

このほか、最先端のLEDを活用することで、イチゴ1株あたりに必要な電気量を14%削減することに成功した。

イチゴで「全米から世界へ」多地域展開狙う

メガファームが順調に滑り出し、古賀氏は次の展開も見据える。

「メガファームが稼働したといっても、まだ東海岸エリアの需要に対応するだけで精一杯の状況。

今後は同程度の規模の工場を東海岸以外の地域にも建設し、アメリカ全土の需要に応えられるようにしたい」(古賀氏)

さらに、2023年12月に販売開始したトマトに加え、ほかの作物の展開も視野に入れる。例えばメロンはある程度研究開発が終わり、あとは「いつ発売するかという段階」(古賀氏)まで来ているという。

「イチゴだけで世界に5兆円の市場があり、超高級イチゴに絞っても500億円程度の市場規模。ただ、いま社員が210人いるが資金も含めてリソースには限界がある。

プライオリティとしてまずはイチゴで多地域展開を進め、世界中に『オイシイファームのイチゴ』を広めていく。

次に、毎年なのか2年ごとなのかまだ決めていませんが、新しい作物を順次発売したいと考えています」(古賀氏)

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