宇宙ベンチャーのSynspectiveが70億円調達。米ロケットラボと10機の打ち上げ契約も締結

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画像:Synspective

宇宙ベンチャーのSynspectiveが6月20日、シリーズCラウンドで第三者割当増資により70億円の資金調達を実施したことを発表した。引受先となったのは、野村スパークス・インベストメント、ジャフコグループ、みずほキャピタルなど。今回の調達によって、Synspectiveの累計調達金額は、融資の83億円を除いても281億9000万円にのぼる。

災害時に期待の宇宙ベンチャー

Synspectiveは、2018年に創業したばかりの宇宙ベンチャー。内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)で「SAR衛星」の研究開発に携わっていた慶應義塾大学の白坂成功教授が共同創業したことでも注目されている。

同社では小型のSAR衛星(合成開口レーダー衛星)を開発・運用することで得られたSARデータの販売や、解析によるソリューションを提供する。

あまり聞き慣れないかもしれないが、「SAR衛星」とは、航空写真のような画像を撮影できる光学衛星と異なり、天候や時間帯に関係なく、宇宙から地形データを取得することに強みをもった衛星だ。

例えば能登半島地震のような災害の発生前後で同じ地域を撮影していれば、土砂崩れや地殻変動によって生じた地形の変化を見つけることができる。光学衛星だと天気が悪かったり、夜遅い時間だったりすると地形変化を観測することは難しくなるが、雲を透過するマイクロ波を活用してデータを取得するSAR衛星であれば、天候や時間帯に限らず観測できる。

大雨や洪水などが発生した際には、水面の高さを観測することで浸水地域を正確に把握した上で災害対応を考えたり、火災保険の手続きなどに生かしたりすることも想定されている。

Synspectiveは、2020年後半までに30機の小型SAR衛星の打ち上げを目指し、資金調達や研究開発を進めている。

地球の周りにそれだけの数のSAR衛星を展開しておくことができれば、世界のどこで災害が起きても、数十分から1時間程度でデータを取得して活用できるからだ。

このように無数の小型人工衛星を打ち上げて一つのサービスを構築する手法は「衛星コンステレーション」と呼ばれ、ここ数年宇宙産業をけん引する存在として期待されている。大型の衛星を必要としないため開発コストが抑えられ、宇宙空間への低コストでの輸送方法もある程度確立されてきていることから、ビジネスとして現実的な手法になりつつある。

衛星10機の打ち上げ契約も締結

Synspectiveの新井元行CEO(左)と、米Rocket Labのピーター・ベックCEO(右)。

Synspectiveの新井元行CEO(左)と、米Rocket Labのピーター・ベックCEO(右)。6月18日、撮影。

撮影:三ツ村崇志

Synspectiveは、ニュージーランドでロケットの打ち上げを実施しているアメリカの宇宙ベンチャーRocket Lab社のロケットを通じて、これまでにSAR衛星の打ち上げを4度実施。全て成功してきた。2024年中には、まだ2度の打ち上げ契約があるという。

6月18日には、Rocket Labと新たに10機の衛星の打ち上げに合意したと発表した。同日、日本の帝国ホテルで、ニュージーランドのクリストファー・ラクソン首相も交えた調印式が行われた。この打ち上げは、2025年から2027年にかけての実施を想定している。

今回調達した資金は、先々に控えている打ち上げに向けた開発・製造・打ち上げ資金としての使途がメインだ。同社広報によると、衛星データのソリューション開発や、今後展開を考えている量産拠点の設備拡充などにも活用していくという。

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