福利厚生サービスを手掛けるスタートアップ・HQの坂本祥二氏が新サービスを発表した。
撮影:横山耕太郎
「福利厚生サービスモデルは20年と全く変わっていない。現状の福利厚生は8割は映画などの娯楽に使われており、4人に1人しか自社の福利厚生に満足していない。非常に形骸化している」
リモートワークに特化した福利厚生サービスを展開するスタートアップ・HQの坂本祥二CEOは2024年4月17日に開いた新サービス発表会で、現状の福利厚生代行サービスの問題点をこう指摘した。
福利厚生代行サービスは、「ベネフィット・ステーション」を運営するベネフィット・ワン、「福利厚生倶楽部」を運営するリロクラブが2強サービスとしてシェアを獲得している。
ベネフィット・ワンを巡っては、第一生命ホールディングスが2024年3月、株式公開買付(TOB)に成功したと発表。5月にも第一生命ホールディングスに完全子会社化され、業界を取り巻く環境が変化している。
HQの坂本CEOは「新規参入サービスも出てきており、長く変わらなかった業界に変化の芽が出てきている」とし、大手サービスの現状については「現在の人的資本経営の潮流に合っているのかというと、そうではない」と批判した。
記者会見では競合であるベネフィット・ワン、リロクラブという社名は出さなかったものの、「福利厚生大手2社の株価」をグラフで示し、「人的資本経緯の検索トレンドと逆向して、株価の平均値は過去3年で最低になっている」と指摘するなど、対決姿勢を打ち出した。
記者会見で使われたスライド。
提供:HQ
一人ひとりに合った福利厚生をAIが提案
HQはコロナ禍の2021年3月に、LITALICO(リタリコ)でCFOを務めた坂本氏が創業した。
リモートワーク普及を追い風に、社員一人ひとりに対して予算に応じてデスクやチェアなど必要な商品をコンシェルジュが提案するサービス「リモートHQ」を展開し、売上高は年換算で4億円を超えた。
そして4月11日、新たに発表したのが、ベネフィット・ワンやリロクラブの強豪サービスとなる福利厚生プラットフォーム「カフェテリアHQ」だ。
カフェテリアHQの特徴は、AIを活用して社員一人ひとりに合った福利厚生を提案することに加え、利用方法の利便性を高めた点にある。
具体的な利用方法は、まず「性別と年齢」「職種」「リモートワークの頻度」「子供がいる場合、子どもの年齢」などを選択し、次に解決したい課題として「家事代行」や「運動不足」、「マッサージ器」、「オンライン学習」「ミールキット」などを選択する。するとAIがその人に適した福利厚生サービスを提案してくれるという。
性別や職種、子どもの年齢や、解決したい課題などを選択すると、一人ひとりにあった福利厚生をAIが提案してくれる。
撮影:横山耕太郎
「例えば子育て中の女性であれば、マッサージ器や家事代行サービス。若手の男性社員だと、オンライン学習など、一人ひとりに全く違う提案をする。アマゾンやネットフリックスを参考にしたUI設計をしている」
提案する福利厚生の内容は会社によってカスタマイズが可能で、社員に割り振られたポイントを使って、そのままECのように商品に交換したり、サービスによっては、一度EC上で自費で精算して経費を請求する形をとる。
「これまでの福利厚生では、PDFや手元のマニュアルを探す手間がかかり、実態としては誰も使っていないという現状だった。 経費請求の形でも、簡単に申請できるUIを実現した」
競合は法人1600万会員、食い込めるか
HQの坂本CEOは「従来型の福利厚生は形骸化している」と指摘する。
撮影:横山耕太郎
カフェテリアHQが打ち出すのが、徹底した大手サービスとの差別化だ。
大手サービスでは一人あたり月額約500円が相場だが、HQは半額以下の200円で提供し、また投資対効果の見える化もアピールする。
「利用率だけではなく、生産性向上・エンゲージメント向上など、成果に対する相関まで自動でレポートを作成し毎回提出する。福利厚生をコストではなく、投資と捉えて投資対効果をしっかり確認できる」
HQは「3年間で100万ユーザーの獲得を目指す」と意気込むが、大手の規模感は圧倒的だ。
ベネフィット・ワンの売上高は423億7000万円(2023年3月期決算)、ベネフィット・ステーションの導入企業法人数は1万6719社(2023年4月時点)、法人会員数は1594万人(2023年4月時点)にのぼる。
すでに大手サービスがシェアを獲得している福利厚生代行市場、スタートアップがゼロからどこまで割って入れるか、その道程は簡単ではなさそうだ。