NTTコムやヤンマーなど大企業が注目「田んぼメタン削減ビジネス」の正体。三菱商事やクボタも参入

ntt communications yanmar nakaboshi rice farmer methane reduction

日本のメタン排出量の45%が米作りの過程で排出される。これを削減する「中干し」(写真)期間の延長が、農家の副収入源になると期待されている。

提供:ヤンマーマルシェ

異常気象や燃料・肥料の高騰にさらされる農家の収益向上策として、メタンの排出削減ビジネスに注目が集まっている。

米作りの過程で行われる「中干し」(※)期間を延長すると、メタン排出量を減らせる効果に着目。農家が削減した排出量をクレジット化して販売し、その売却益を農家に還元するというスキームだ。

脱炭素だけでなく、農家の新たな収入源を確保するビジネスモデルとして、NTTコミュニケーションズや三菱商事、ヤンマー、クボタなどの大手企業やスタートアップが相次いで参入している。

※中干し:水田から水を抜いて土を乾かすことによって、根腐れや過剰な生育を抑え、米の品質・収量を高める効果がある。

稲作のメタン排出量は「牛のげっぷ」の約2倍

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米作りの過程で排出されるメタンは、日本のメタン排出量の45%を占める。

提供:NTTコミュニケーションズ

世界の温室効果ガス濃度は2021年に過去最高を記録した。中でも、CO2の25倍もの温室効果があるメタンの年増加量は観測史上最高となり、排出削減が喫緊の課題とされている。

日本では、農業から排出されるメタンが最も多く、排出量全体の78%を占める。

メタンの排出源として有名な「牛のげっぷ」は全体の25%。それをはるかに上回るのが稲作、つまり米作りの過程で排出されており、全体の45%に上っている。

稲作由来のメタン排出量削減策としてにわかに注目されているのが、冒頭の「中干し」期間の延長だ。農林水産省によると、中干しを1週間延長することでメタン排出量を3割削減できる。

2023年3月、この方法論が、国が認証する「J-クレジット」対象に追加され、企業が地球温暖化対策推進法(温対法)や省エネ法に基づいて政府に行う報告にも利用できることになった。

これによって、東京証券取引所が今年10月に開設予定のカーボンクレジット市場で取引可能になったことも、中干し期間延長によるクレジット創出ビジネスが関心を集めている理由だ。

メタン削減からブランド米販売まで

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NTTコミュニケーションズとヤンマーマルシェが、稲作農家を対象にスタートしたメタン排出削減ビジネスの概要。

提供:ヤンマーマルシェ

8月2日、NTTコミュニケーションズとヤンマーホールディングス傘下のヤンマーマルシェは共同で、このスキームを使ったビジネスを開始すると発表した。

NTTコムが開発した農業IoTセンサーで水位を計測するほか、今回新たにクレジット発行申請アプリ「Green Natural Credit」をローンチした。

各農家のメタン削減分をクレジット化して、東証のカーボンクレジット市場や民間のマーケットプレイスでの取引、企業への販売によって得た利益を農家に還元する。

また、この仕組みを使って生産した米をブランド米として、ヤンマーマルシェが販売を支援するほか、NTTドコモが運営するdショッピングでの販売も視野に入れている。

NTTコミュニケーションズ ソリューションサービス部イノベーションオフィサーの熊谷彰斉氏は、センサーとアプリの活用によって、

「エビデンスを確保し、グリーンウォッシュと言われないような形で申請をきっちりすることができる」

と語った。

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NTTコミュニケーションズは水位を測定・管理するセンサーのほか、クレジットの発行・申請をスマホで簡単に行えるアプリを新たにローンチした。

提供:NTTコミュニケーションズ

2023年度はヤンマーマルシェの契約農家190件のうち、福井県の4件、滋賀県の1件で実証実験を行い、2024年度から全国に展開。2030年までに、CO2換算で約1万トンのメタン削減を目指す。

稲作農家の苦境を救うバリューチェーン

気候変動対策という面だけでなく、厳しい経営を迫られている農家の収入アップにも期待がかかる。

コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻による燃料・肥料の高騰は、農業経営を圧迫し、さらにゲリラ豪雨をはじめ地球温暖化によって大きな打撃を受けている。

苦境に陥った農家を支援する新たな手法はないか。ヤンマーマルシェが検討するなかで浮上したのが、NTTコムとのタッグだった。

「J-クレジットは非常に煩雑な仕組みになっているため、削減量の計算や申請手続きをサポートすることが大切。また、農業生産者が減少するなか、生産者の販路開拓をサポートすることは持続可能な食料システムにもつながる。

両社が共創すれば(稲作農家を取り巻く)課題を解決できるという意見が合致した」(ヤンマーマルシェ フードソリューション部・菊池満部長)

一方、中干し期間を延長することで収量が低下する事例もある。

中干しに適した圃(ほ)場(=農作物を栽培する場所)を見極めることも大きな課題だが、そこにヤンマーマルシェの知見が生かせるという。

「中干し期間は地域や農家によって違いがあり、中干しに適した圃場とそうでない圃場もある。今年度の実証では、中干しすべきか否かの判断をサポートすることも含めて取り組む予定だ」(菊池氏)

三菱商事、クボタなども参入

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カーボンクレジットの市場規模は急速に拡大。日本国内で売買されるJ-クレジットだけでも、2030年に2倍近くになると予測されている。

提供:NTTコミュニケーションズ

6月には、三菱商事とクボタ、スタートアップのGreen Carbon(グリーンカーボン)のプロジェクトが初めてJ-クレジットとして認められ、事業をスタート。グリーンウォッシュ対策としてブロックチェーンを活用したり、生産者向けの営農支援ツールと組み合わせたりするなど、各社独自の手法を生かして展開している。

NTTコムの熊谷氏は、カーボンクレジットの購入ニーズが年々高まっているとして、

「10月に東証も(市場を開設して)クレジット取引を始めるため、クレジットの売買がさらに活発化する。(これらによって)農家の方が経済的効果として恩恵が得られる」

と語った。

これまであまり目を向けられてこなかった「稲作におけるメタン問題」。

新たに始まるクレジット取引に大手企業が参入することで、農家にとっても、地球環境にとってもプラスに働くビジネスとして広がるか。今後の動向が注目される。

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