エヌビディア(Nvidia)がけん引してきた堅調な株価上昇の背後で、同じテクロノジーセクターのソフトウェア関連銘柄が不調に陥っている。スイス金融大手UBSがその理由を分析している。
Dennis Diatel/Alamy
2024年、ここまでのソフトウェア銘柄の値動きは荒れ模様で、とりわけ業界最大手クラスの数社については、市場予想を下回る決算と業績見通しの下方修正を経て株価が下落している。
最も際立った動きとしては、最大手セールスフォース(Salesforce)が5���29日に発表した第1四半期(2〜4月)決算で売上高が市場予想に届かなかったことから、翌30日に21%の急落を記録したことが挙げられる。
サブセクターとしてのソフトウェアは年初に比べて8%低い水準で推移しており、年初来14%の上昇と堅調な値動きを見せるS&P500種株価指数と明暗が分かれている。
テクノロジーセクターに限って見ると、ソフトウェア銘柄の値動きは軒並み好調な他業界と違って精彩を欠き、半導体銘柄やハードウェア銘柄との間に大きな開きが生まれている【図表1】。
【図表1】半導体(灰線)・ハードウェア(濃灰線)・ソフトウェア(赤線)各セクターのパフォーマンス(2023年9月〜2024年6月)。
UBS
実態をより正確に把握するため、UBSは上場企業のIT予算を管理監督する最高情報責任者(CIO)および最高技術責任者(CTO)ら12人の経営幹部を対象とした調査を実施し、ソフトウェア銘柄の不調に関する見解を聞いた。
同調査を経て作成した6月16日付の顧客向けレポートで、UBSはソフトウェア銘柄のパフォーマンスが精細を欠く四つの最重要の理由に加え、今投資すべきSaaS(サース、サービスとしてのソフトウェア)銘柄を特定している。
ソフトウェア需要減少「四つの理由」
セールスフォースを筆頭とするソフトウェア銘柄の不調は、エンタープライズ向けソフトウェアを購入契約してきた顧客企業が以前より支出を控えるようになったことをはっきりと示している。
そして、そうした需要減退が起きている第一の理由は、UBSが「ソフトウェア支出の合理化」と呼ぶ動き、要するに企業のソフトウェア製品に対する支出抑制が進んでいることだ。ソフトウェアベンダーと顧客企業の双方とも、実際にそうした動きがあることを認めている。
セールスフォースのマーク・ベニオフ最高経営責任者(CEO)は、第1四半期決算で売上高が市場予想を下回った理由として、パンデミック期に(リモートワーク環境整備などのために)ソフトウェアを過剰調達した企業が追加購入を控え、既存ソフトウェアの「吸収(ingest)」「統合(integrate)」を進めている現状を挙げた。
UBSの調査に応じた経営幹部12人のうち、4分の3に相当する9人が同様の見解を示し、購入済みのソフトウェアを社内に展開・実装するだけで手一杯で、新たなテクノロジーへの投資どころではないと実情を説明している。
また、ソフトウェアベンダー側が自社製品の値上げに強気すぎた面もありそうだ。IT予算の引き締めを進める顧客企業は値上げに強く反発しており、それが需要の減退に拍車を掛けている。
UBSの調査に回答したある経営幹部は率直にこう語っている。
「SaaS企業は軒並み値上げを繰り返していますが、いつまでも続けられるわけがありません」
第二に、顧客企業の「AI分野への投資拡大」もソフトウェア企業にとっての脅威となっている。
AI技術の進化と普及が急速に進み、企業がかつてソフトウェアに費やしていた予算はどんどんAI投資にシフトし始めている。
UBSの調査に回答した経営幹部12人のうち9人が、ソフトウェア製品の需要減少にAIが一役買っているとの現状と見通しを口にした。
セールスフォースにはまさにその通りの逆風が吹いている。同社の顧客関係管理(CRM)ソフトウェア製品はまるごとAIに置き換わる可能性があると考える投資家は少なくない。
需要減退の第三の理由は、顧客企業の「ソフトウェア向け予算の構成変化」だ。
企業側で(ソフトウェアの機能を利用できるサービスである)SaaS投資の優先順位が下がり、代わりに従来あまり重視されてこなかったクラウドインフラやアプリケーションセキュリティなどが重視されるようになってきている。
最後に、需要減退の第四の理由として、ここまで挙げた三つほどの影響はないものの、「マクロ経済の不確実性」も無視できない。
エンタープライズ向けソフトウェアを利用する企業顧客は、金利の高止まりや個人消費の減速により利幅の減少に苦しんでおり、それがソフトウェア向け予算の縮小をはじめとするコスト削減の取り組みにつながっている。
米連邦準備制度理事会(FRB)は3月の時点で年3回の利下げを見通していたが、2%の物価目標達成が見通せない状況が続いているため、6月中旬の連邦公開市場委員会(FOMC)では引き続き政策金利を据え置き、年内の利下げも1〜2回に修正した。
企業にとっても、先行きの見えない状況は当面変わりそうにない。
それでもソフトウェア銘柄に投資するなら
現在のソフトウェア業界に投資機会を見出そうとすれば、それはサイバーセキュリティもしくはクラウドインフラ関連の銘柄だと、UBSは分析する。
UBSの分析によれば、前節で挙げた「ソフトウェア支出の合理化」と「ソフトウェア向け予算の構成変化」はいずれも長期にわたって続くトレンドであり、それによって業界は今後大きく変化していく。
したがって、投資家はソフトウェアの中でも持続性のある領域に目を向けるべき時期に来ていると同行は強調する。
サイバーセキュリティは有望な成長分野であり、これから急激に需要が伸びる可能性があるという。UBSの調査に応じた経営幹部の一人はこう語っている。
「サイバー攻撃によるサービス障害や情報流出の発生事案が相次いでおり、企業には次の被害者としてニュースのヘッドラインに乗ることのないよう、事前対策に万全を期そうとしているように思います。
そうであるならば、(対策を提供する)セキュリティ関連企業の業績はこれから伸びていくのではないでしょうか」
マクロ経済環境の変化がどうあれ、���イバーセキュリティソフトウェアは重宝されると考えられ、UBSはそうしたソリューションを提供する銘柄として、クラウドストライク(Crowdstrike)やサイバーアーク(CyberArk)などを推奨する。
クラウドインフラの需要も高まっている。
例えば、クラウドインフラプロバイダー大手の一角を占めるマイクロソフト(Microsoft)や、その背後を追いかけるオラクル(Oracle)は、軒並み低調なソフトウェア銘柄群とは対照的に良好なパフォーマンスを見せている。
とりわけ、マイクロソフトはAIおよびサイバーセキュリティという成長分野でも大きな存在感を発揮しており、それゆえに従来的なSaaS需要の減退があっても業績を維持できるレジリエントな銘柄とUBSは高く評価する。
なお、UBSは上記4銘柄の投資判断をいずれも「買い」としている。