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限りある資源の消費と経済成長をデカップリング(分離)させ、持続可能な成長を目指す「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」。そんな経済モデルを先導するスタートアップ企業が、環境意識の高い若い世代を取り込もうと奮闘している。
そんな先駆的スタートアップのひとつが、洋服のお直しアプリを提供するSojoだ。
短期化する衣服のライフサイクル
ロンドンを拠点に洋服のお直しやリメイクを手掛けるSojoは、注文、配達を請け負うフードデリバリーのビジネスモデルを取り入れている。利用者がアプリを通して予約をすると、配達員が洋服を自宅まで引き取りに来てくれる。配達員はその洋服を仕立て屋へ届け、5日以内に返却されるという仕組みだ。
マッキンゼーが2016年に発表したレポートによると、2014年の1人当たりの衣服の消費量は、2000年から比べて6割以上増えたが、衣服のライフサイクルは半減した。
一方で、ミレニアル世代やZ世代は、環境保全に強い関心を持っている。「環境に配慮された商品かどうか」が購買の判断に影響を及ぼすと答えたのは、2つの世代で25%以上にのぼることがデロイト・トウシュ・トーマツ(Deloitte Touche Tohmatsu)の調査で分かった。
Sojo創業者、ジョセフィン・フィリップス
Sojo提供
Sojoの創業者であるジョセフィン・フィリップスは、以前、サイズの合わない古着を買ってしまい、お直しを試みようとした時のことをこう振り返る。
「私の世代ではお裁縫が得意な人はあまりいませんし、私もやり方がまったく分かりません。仕立て屋がどこにあるのかも知らないし、知っていたとしてもそこへ行く手間が惜しい。何もかもスマホで済ませることに慣れてしまっていますからね」
そこでフィリップスは、「1800年代から何も変わっていない、驚くほど断片化された仕立業」を近代化する使命に目覚め、起業した。
フードロス削減で消費を改革
同じような志を持つ起業家は他にもいる。
シェアリングサービスを提供するOlioは、廃棄されてしまう食品や生活用品を近隣の住民同士で譲り合えるアプリを運営している。賞味期限が迫る食品をアプリに登録すると、ニーズがマッチした近所の住民に回収してもらえるという仕組みだ。Olioは今後、物品の貸し出しサービスも計画している。
Olio共同創業者のテッサ・クラークは、気候変動や生物多様性を脅かす危機の根本原因は、経済成長を高めるための消費喚起モデルだと明言し、こう続ける。
「Olioのアプリはもともとフードロスを削減するために開発されましたが、今では人と人をつなぐアプリへと成長しました。
でも最終的な目標は、消費を改革することです。何か欲しいものがあれば、まずは近隣の住民がそれを登録しているかどうか調べてほしい。近所の人がそれを不要とすれば譲り受け、使っていなければ借りられる環境を整えたいのです」
食品や日用品がシェアできるOlioのアプリ
Olio提供
サーキュラーエコノミーへ向かう投資マネー
サーキュラーエコノミーをビジネスモデルに取り入れる企業は増えている。玩具のサブスクリプションを提供するWhirli、電子機器をリサイクルするGrover、リユースできる生理用品を販売するLastPad。Fat Llamaはあらゆるモノを貸し出すことで「レンタル改革」を起こしているし、Kitcheのアプリは食料品のレシート管理や料理レシピの提案ができ、消費者の無駄遣いを減らし、フードロスの削減に貢献している。
投資家も消費者の購買行動の変化に着目している。
米調査会社PitchBook Dataによると、ベンチャーキャピタル(VC)は2021年度、世界各地のサーキュラーエコノミー型スタートアップ企業にすでに3億7500万ドルを投資しているという。主な投資先は、取り組みが進んでいるヨーロッパだ。
内訳を見ると、ヨーロッパのスタートアップ企業への投資額は2億4800万ドルに対し、アメリカのスタートアップ企業への投資額は1億1600万ドル。しかし2020年では、それぞれ1億8000万ドルと3億3000万ドルだった。
Pitchbook/Insider
Olioに投資するVC、オクトパスベンチャーズ(Octopus Ventures)は、食品や衣服、電子機器などを個人間で譲り合ったり、貸し借りしたりする市場規模は今後も拡大すると予測する。
同社でベンチャー投資を担当するレベッカ・ハントは、次のように話す。
「シェアリングエコノミーへのシフトを牽引しているのはZ世代です。特に高額な商品ほどシェアリングは広がっています。
今後10年間で、小売業やサステナブルビジネスでイノベーションが次々と生まれると予想されていますが、見込まれる市場規模の1割ほどしかまだ実現していません。
これはつまり、起業家や販売者にとって、旨味のあるビジネスを展開する余地がまだ十分にあるということです」
新たな取り組みは世界の至るところで見られる。
東京オリンピックで授与されたメダルは、廃棄家電をリサイクルして製作された。老舗高級百貨店のハロッズもシェアリングエコノミーに乗り出した。同社は2021年7月、デザイナーズブランドの衣服1000ドル相当を1日当たり約20ドルで貸し出すと発表している。
※この記事は2021年9月1日初出です。