お金は血、財布は拳銃!? 10冊の本で考える「マネーの正体」と上手な付き合い方

BIeyecatch2401

ほんのれん編集部


ニレ:

ニレ:

子育てに老後の心配に物価上昇に、お金の悩みは尽きへんなぁ(ため息)。


オジマ:

オジマ:

お金ってこんなに身近なだけに、ちゃんと考えてみることが少ないかも。だから余計に不安になるのかな。


ウメザワ:

ウメザワ:

確かに、お金ってなんなんだろう。稼ぎ方とか貯め方とか節約方法はたくさん聞くけど、その正体はよく分からないかも。


ヤマモト:

ヤマモト:

お金には人をつなぐ役割も、人と人の縁を切る役割もあるよね。世の中を活性化させもするし、混乱させもする。そのパワーは、どこからくるんだろう?


お金って、なにに似ている?

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『ふしぎなお金』赤瀬川原平(著)筑摩書房 2022

財布は拳銃に似ている。懐に忍ばせておいて、いざという時にサッと取り出す。護身用の道具でもあり、同時に人を傷つけたり殺めたりもする。

お金は血に似ている。どちらも命に関わるエネルギーの源だ。流体で生臭くて、輝いている—— 。

アーティストの赤瀬川原平による『ふしぎなお金』は、たくさんの「たとえ」とドキッとさせるイラストを駆使して「お金ってなんだろう」を問いかける。

むかし、大きな石がお金として機能していた社会では、うっかり石が海に沈んだあとにも「そこに石がある」という信用に基づいて価値のやりとりが続いていた。

つまり、お金って信用のこと? 約束のこと? じゃあ紙幣やコインはなんなのか。問いから問いへ、お金をめぐる探索に終わりはなさそうだ。

貨幣はなぜ生まれたのか

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『貨幣の歴史』デイヴィッド・オレル(著) 角敦子(訳) 原書房 2021、 『貨幣の「新」世界史』カビール・セガール(著) 小坂恵理(訳) 早川書房 2018

『貨幣の歴史』(デイヴィッド・オレル/著)と『貨幣の「新」世界史』(カビール・セガール/著)は、貨幣がどのように生まれ、発展してきたかを知るために最適な2冊だ。

貨幣の歴史をさかのぼると、5000年前にたどりつく。メソポタミアで都市文明を築いたシュメール人は、粘土板に楔形文字を記した。そこには、古代の金融システムの姿が刻まれている。

当時はまだコインも紙幣も誕生していなかった。粘土板に残されているのは、政権が取り決めた物価と(例えばオオムギや塩や羊毛が銀何グラムに相当するか)、誰が誰にどれだけの借りがあるかという負債の記録だ。

その後、紀元前7世紀に至ってようやく、現存する最古のコインが登場する。現在のトルコに位置したリディア王国で、金と銀の合金コインが鋳造され、やがて法定通貨を作る風習が古代ギリシャ世界に広がった。

ただしこの頃の金属硬貨はコインそのものの価値が高すぎて、一般市民が日常使いすることはなかった。むしろ独立国家の象徴としての機能が強かったのだ。

貨幣の起源から分かることは、お金はそもそもモノの売り買い(交換)のために生まれたわけではなかったということだ。

むしろ物価の目安など数値を表すツールとして、そして、負債を記録するシステムとして、マネーは人類史に姿を現した。

資本主義は魔術なのか?

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『千夜千冊エディション 資本主義問題』松岡正剛(著)KADOKAWA 2021、 『ファウスト(二)』ゲーテ(著) 高橋 義孝(訳)新潮社 1968

金融システム誕生から5000年、最古のコイン登場から3000年。こんなに時間がたった今でも、私たちは相変わらずお金に振り回される。インフレ、バブル、経済格差。なぜマネーはこんなに人や社会を狂わせるのか。

松岡正剛は『資本主義問題』で、こんなふうに読み解く。

グローバル資本主義の狂い咲きがいつ始まったのかということなら、日時までわかっている。おそらく変動相場制とともに蓋があき、金融工学の使い過ぎでおかしくなっていった

そしてその奥では、きっと「金が金を生む錬金術」がニヒルな笑いを浮かべている。

かのゲーテは『ファウスト』第二部で、そのからくりを暴いていた。錬金術師のファウストは、悪魔メフィストフェレスの知恵を借りて(あるいは悪魔にそそのかされて)、神聖ローマ皇帝にある証書へ署名させる。それは、地下に埋まっている金銀の採掘を許可する証書だった。

署名された証書は一晩のうちに何千枚もコピーされて、それ自体が紙幣として帝国に流通していく……。ファウストは「見えない金」をもたらしたのだ。

近代国家による金本位制の紙幣発行システムとそれに続く資本主義の興隆を、錬金術師の魔術と重ね合わせた、ゲーテの慧眼だった。

江戸人だって、お金の悩みは尽きなかった

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『浮世絵と芸能で読む江戸の経済』櫻庭由紀子 (著) 笠間書院 2023

こんなグローバル資本主義にどっぷりと飲み込まれる以前、近世の日本ではお金に煩わされることがなかったのかと言えば、もちろんそんなことはない。

『浮世絵と芸能で読む江戸の経済』(櫻庭由紀子/著)は、お金をめぐる庶民と幕府のすったもんだを浮世絵や芸能作品から読み解く。

平和な江戸の世で困窮した武士はアルバイトに励んでいたし、かたや儲かっている町人とて、奢侈(しゃし)禁止令で思うように遊べない。

それでも武士がアルバイトで花を育てたことから園芸ブームが巻き起こったり、奢侈禁止令の隙間をぬっておしゃれをするために友禅染の技術が発達したり、政治経済の制約から江戸独自の文化が次々に花開いていった。

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『財布でひも解く江戸あんない: マンガで辿る江戸時代の暮らしと遊び』いずみ朔庵 (著) 誠文堂新光社 2016

『財布でひもとく江戸あんない』(いずみ朔庵/著)では、そんな江戸の暮らしの一端を体験できる。

主人公は、江戸時代にタイムスリップして、長屋に住むことに。1K・風呂なし・トイレ共同で、1カ月の賃料は四百文(8000円)。生活必需品の購入は、ほとんどがツケで盆暮などにまとめて払う。実は貨幣の流通量が少なすぎて、払うべきときに貨幣が手元にないことが多かったからだ。

さらに、幕府が財政難で悪貨を作ったせいで、貨幣が額面通りの価値をもつとも限らない。例えば同じ小判でも、古いものの方が金の含有量が多く価値も高く、後年のものになると価値は下がる。江戸の貨幣経済で生きぬくためには、お金の価値を目利きする力も欠かせなかった。

「お金ってなんだ」再考

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『お金のむこうに人がいる ─元ゴールドマン・サックス金利トレーダーが書いた予備知識のいらない経済新入門』田内学(著) ダイヤモンド社 2021

現代に生きる私たちは、お金をどんなふうに捉えるべきだろうか。元ゴールドマン・サックス金利トレーダーの田内学さんは、著書『お金のむこうに人がいる』で、お金があれば大丈夫というのは錯覚だ、と断言する。

何億円の資産を持っていたとしても、パンを作ってくれる人がいなければ、パン一つ買うことができない。経済はお金のことではなく、人のことなのだ。そう考えると、貯蓄や消費についての見方も変わる。

例えば、老後が不安だからといって、みんなが自分だけのために貯金ばかりするようになったら、どうだろうか。未来を支える人材や技術への投資が不十分になって、自分たちの将来を支えてくれる社会が育たなくなる。お金は人と人のあいだをつないで初めて、意味をもつ。

お金だけじゃない経済?

Financeという英語は、finishと語源を同じくしている。金融的な清算は、もともと関係を清算することを意味していた。お金を払うことで負債を断ち切り、「借りがある」状態から脱することができるからだ。

これはお金の良い機能でもある。負債関係の清算方法がなかったら、人���は一度つくった借りから逃れられず従属関係に縛られてしまう。

とはいえ、今の社会はあまりにも貨幣の「縁切り力」に偏重しすぎて、無縁社会と化しているのではないか。つながりを切るお金の関係だけでなく、つながりをつくる「贈与」の関係も合わせて実践していくべきではないか。そう論じるのが、『21世紀の楕円幻想論』(平川克美/著)だ。

貨幣を使った等価交換一辺倒の「真円」的な社会から、等価交換と贈与システムの両方をあわせもった「楕円」的な社会へ。交換と贈与のふたつの焦点を程よく調和させることで、無縁社会をぬけ出そうと呼びかける。

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『21世紀の楕円幻想論─その日暮らしの哲学 』平川克美(著)ミシマ社 2018

ブロックチェーン×贈与経済の可能性?

一方で、贈与には、危険性もある。負債感覚をともなう贈与関係がふくらむと、隷属関係が生じ、ときには前近代的な身分や立場の固定にもつながってしまう。

贈与経済の負の側面を抑制しながら、人と人をつなげ、お金だけに頼らない生き方を可能にするにはどうすれば良いか。そこで、ブロックチェーンを活用した新しい贈与のあり方を提案するのが、『贈与経済2.0』(荒谷大輔/著)だ

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『贈与経済2.0 お金を稼がなくても生きていける世界で暮らす』荒谷大輔(著)翔泳社 2024

荒谷さんは、贈与を受けた人が感謝の重さをブロックチェーン上に記録できるシ���テムを構想し、実証実験も進めている。

贈与行為を分散型台帳に記録しておくことで、その「贈りもの」の意味を固定しすぎず(つまり負債が生む従属関係を固定せず)、かつ「恩を忘れる」リスクも減らし、「いつか何かのかたちでお返しすべきご恩」くらいのモヤっとした状態で持ち続けられるようにする仕組みだ。

ブロックチェーンの「分散力」によって、いままで贈与経済が抱えてきた課題を乗り越えられるか。ビットコインなどブロックチェーンを活用した仮想通貨の動向と合わせて、注視したい。

お金の「あるべき姿」を想像すること

贈与経済の可能性を模索する動きが高まる一方で、お金そのものを問い直しつづけることも必要だ。かつて、お金についてとことん考え、それを物語に託した作家がいた。『モモ』や『はてしない物語』の作者、ミヒャエル・エンデだ。

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『エンデの遺言 ―根源からお金を問うこと』河邑厚徳、グループ現代(著)講談社 2011

生前、エンデは自身の「お金観」をNHKの取材チームに語っていた。その貴重な内容を収めたのが、『エンデの遺言 -根源からお金を問うこと』(河邑厚徳、グループ現代/著)だ。このなかでエンデは、お金の持つ「ずっと価値が変わらない」という特性を問題視する。

お金の価値は、基本的には腐ったりすり減ったりすることがない。だから、人々は将来の不安に備えて、お金を貯める。経年劣化しないから、持ちすぎることがないのだ。このことが、お金を循環しにくくし、経済の停滞を招き、格差の拡大を助長する。

エンデは、かつてドイツの実業家シルビオ・ゲゼルが考案した「エイジング・マネー」に可能性を見出していた。「歳をとるお金」だ。一定期間が経つと価値が減るように、お金を設計する。

例えば1932年にオーストリアのある町で発行された紙幣は、毎月1回、額面の1パーセントの値段のスタンプ(切手)を買って貼る仕組みをとり入れた。

同じ紙幣を3カ月間持っていたら、3パーセント分のスタンプを買わなければならず、その分「お金を持っているための代金」がかかる。こうなると、お金はできるだけ早く使ったほうがいい。結果、経済が活性化し、町から失業者の姿も消えたという。

エンデは、こう言っている。

経済生活は本質的に社会連帯的なものなのです。(略)資本の自己増殖を許す金融構造が、友愛の理想を破壊してしまったのだと思います

お金は、それだけで万能のパワーを持つものではない。なにかを象徴したり、なにかによって保証されたり、そして人と人とのあいだを繋くことでこそ、力を発揮するものだ。

秒刻みに価値が変動して人々を惑わせる数値としてではなく、社会から社会へと流れながら想いやつながりを可視化し代替するものとして、お金と向き合い直してみたい。


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