脱炭素の切り札になるか?「核融合業界の『リーバイス』目指す」京大発スタートアップの勝ち筋

※この記事は2021年4月19日初出です。

「たった1グラムの燃料から、石油8トン分のエネルギーを取り出す」

にわかには信じられないかもしれないが、太陽で起きている「核融合反応」を再現することで、二酸化炭素を出さずに膨大なエネルギーを得ることが可能だと考えられている。

「核融合」とは、原子同士が融合することで全く別の原子へと変わる反応のこと。

この反応を発電などに応用しようと、国際的な枠組みで「核融合炉」の研究開発が進められてきた。

太陽

太陽は、水素原子同士の核融合反応によって生じた熱によって燃え続けている。核融合炉は、地上に太陽を再現する技術だ。

Color4260/Shutterstock.com

その一方で、2000年頃から欧米を中心に核融合炉の開発に携わるスタートアップが続々と立ち上がり、今やその数は40〜50社にものぼっている。

ここ数年で、核融合業界への投資も拡大してきた。

中には、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス氏が投資したGeneral Fusion社や、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が出資しているCommonwealth Fusion Systems社など、数百億円規模の資金調達を実現している企業もある。

日本国内でも2021年1月に、京都大学発の核融合スタートアップ・京都フュージョニアリングが、ベンチャーキャピタルのCoral Capitalや個人投資家らから総額約1.2億円の資金調達を発表。一部で大きな話題となった(累計調達額は3億4400万円)。京都フュージョニアリングも、2019年10月に創業したばかりのスタートアップだ。

なぜ今、世界で核融合が注目されているのか?

京都フュージョニアリングの長尾昂代表と、京都大学の教授を兼任する同社CTOの小西哲之教授に話を聞いた。

核融合技術の技術は「今までと違うステージに到達」

京都フュージョニアリングの長尾昂代表(右)と、京都大学の教授を兼任する同社CTOの小西哲之教授(左)

京都フュージョニアリングの長尾昂代表(右)と、京都大学の教授を兼任する同社CTOの小西哲之教授(左)。

撮影:三ツ村崇志

核融合によって得られたエネルギーを使って発電するという発想は、1950年代にはすでに存在していた。日本では、日本人として初めてノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士などがその研究を推進したことが知られている。

その後、1980年代から国際的な協調が進み、2007年にヨーロッパ、アメリカ、ロシア、中国、日本、韓国、インドからなる「ITER国際核融合エネルギー機構」が設立。2010年には、フランス南部サン・ポール・レ・デュランスに技術実証用の国際熱核融合実験炉「ITER」の建設を開始した。

現在では、2025年の稼働を目指し世界各地から納品される装置の組み立て作業が進んでいる。

ITERは炉の直径が約30メートルもある巨大な装置で、総建設費は約2.5兆円と巨額だ。

一企業、それも誕生したばかりのスタートアップが建設できるような規模ではない。だからこそ、核融合炉の研究開発は国家間プロジェクトとして長い年月と莫大な投資をしながら進められてきたわけだ。

ただし、ITER計画は1980年代から議論され、2000年頃に設計された計画だ。それ以降に発展してきた科学技術は織り込まれていない。

「核融合の業界は2〜3年前とは大きく違うステージにきています。最先端の技術を使うことで、数百億規模で建造できるコンパクトな核融合炉が実現されようとしているんです」(小西教授)

これがここ数年の間に欧米で核融合スタートアップが注目されてきた理由の一つだ。

熱を取り出す技術で「唯一無二」の存在に

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