【イギリス政権交代】 スターマー新首相の初日から何がわかる?

記者会見するスターマー新首相

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クリス・メイソン、BBC政治編集長

私の記憶では、閣議が土曜に開かれたのはブレグジット(イギリスの欧州連合離脱)のころが最後で、その前はフォークランド紛争が理由だった。

つまり、めったにないことなのだ。

今回の土曜の閣議は、新政権がさっさと仕事を始めるため、そしてさっさと仕事を始めていると見えるようにするためのものだった。勢いよく、エネルギッシュに、国を治める仕事に取りかかっているのだと。

この日の首相官邸の周辺には、学校の初日にも似た空気があった。その中で私たちはダウニング街に立ち、行き来する閣僚を眺めたり、閣僚たちと話をしたりした。新内閣の面々を「大臣」と呼ぶことに、私たちはこれから慣れていく。

新しい閣僚たちは誰もが笑顔で、警備スタッフと談笑する余裕もあった。閣僚に託される赤いファイルを手にして、誰もがわくわくしいた。

しかし、学校初日のような物珍しさは、これから間違いなく薄れていく。そして、国を治めるための日々の業務に追われるようになる。けれども少なくとも今回は、今のこの時がいかに重大か、誰もが自覚しているようだった。

ダウニング街を労働党の閣僚たちが最後に行き来したのは、14年前のことだ。

労働党が前回、保守党を政権から追い出したのは、27年のことだ。

新しい閣僚たちが初閣議のために集まってから数時間後、サー・キア・スターマーは首相として初の記者会見に臨んだ。穏やかに落ち着いていて、リラックスしているようにさえ見えた。

私たち記者団は、前政権がダウニング街9番地に特別に作った記者会見室ではなく、10番地のまんなかにある公式晩さん会用のダイニングルームに案内された。ちなみに、9番地の新しい部屋は、パンデミック対策のロックダウン最中��繰り返しパーティーが開かれた問題と、密接に関係している。

どの部屋を使うか。こういう決定は偶然の産物ではない。スターマー政権が9番地の部屋を今後、テレビカメラが入るイベントで使うのかどうかは分からないが、ひとまずは明確な変化を可視化した選択だった。

スターマー首相は記者会見で、本人いわく「生々しいほど正直」に、政府が直面する課題に立ち向かっていくと主張した。

首相と複数の閣僚はすでに、イングランドの刑務所や、公的医療の国民保健サービス(NHS)が「壊れている」と表現した。

新政権が前政権を非難することを、国民がいつまで受け入れるのかは、これからの話だ。

この次の展開として(すでに予告されているように)、新首相は矢継ぎ早にあちこちを訪問して回ることになる。外国訪問も含めて。

スターマー氏は選挙戦の最中にあれほど移動しまくり、にこにこと大勢に会ってあいさつしまくり、あちこち飛び回ったわけだが、投票所へ向かってそれで終わり、にはならなかった。いざ総選挙に勝つと、にこにこ笑いながらあちこちを飛び回って大勢とあいさつするのは、さらに続くというわけだ。

スターマー首相は数日中に、スコットランドのエディンバラ、北アイルランドのベルファスト、ウェールズのカーディフを相次ぎ訪問する。そして、9日にはイングランドの市長たちと会談する。

そのあとには、毎年恒例の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議のため、米ワシントンへ向かう。

これは首相にとって、世界各国の指導者たちに会うチャンスだ。そして、大統領や首相しか招かれない国際舞台に立つチャンスでもある。

その翌週(つまり、これから2週間以内)には、国王の演説がある。つまり、議会開会式だ。そこで新政府は、計画している新法を発表する。

さらにスターマー氏は議会開会の翌日には、オックスフォードシャーにあるブレナム宮殿で約50人の欧州首脳を迎える。欧州連合(EU)とは別の、欧州政治共同体という新しめの組織の首脳会議がそこで開かれるからだ。

スターマー氏率いる労働党は「変化」を約束して、圧倒的な多数党となった。投票率は60%と低く、労働党の得票率は34%で、戦後のどの単独過半数政権よりも低かったのだが。

それだけにこの政権が、確かに成果を���せるのだと国民に示すには(もし示せるのなら)、与えられた猶予はあまりないのかもしれない。

だからこそスターマー政権は、絶対に時間を無駄にしないつもりでいる。