ガザ地区でなお飢饉の「高いリスク」、国連が支援する報告書が警告

食料供給を求めるガザの人々

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パレスチナ自治区ガザ地区に住む50万人近くのパレスチナ人が、依然として「壊滅的なレベル」の飢餓に直面していると、国連が支援する「総合的食料安全保障レベル分類(IPC)」の最新の報告書が警告した。

イスラエルとイスラム組織ハマスの戦争が続き、人道支援へのアクセスが制限されている限り、飢饉(ききん)に見舞われる「危険性が高い」と指摘している。

一方で、現在、パレスチナ北部に飢饉が発生している兆候は確認されていないという。

今年3月の前回評価では、この地域に飢饉が差し迫っているという予測が出ていた。

それ以来、北部への食料やその他の援助品の搬入量は増加しており、栄養や水、衛生、医療サービスも提供が強化されていると報告書は述べている。

しかし、南部ラファで検問所が閉鎖されたことや、イスラエルが5月初旬に地上作戦を開始して以来、ラファから100万人以上が避難したことにより、ガザ南部および中���部の食料供給が大幅に減少していると警告している。

世界食糧計画(WFP)は、この報告書が「現在進行中の飢餓の厳しい実態を描き出している」とし、人道支援の継続的なアクセスが極めて重要であることを示していると述べた。

国連関係者はこの状況について、イスラエル軍による援助物資の搬入制限、継続中の敵対行為、法と秩序の崩壊が原因だと非難している。

一方のイスラエルは、ガザ地区への援助物資の搬入やガザ地区内での配布を制限していないと主張し、国連機関が物資を分配できていないだけだと非難している。また、ハマスが援助物資を盗んでいると非難しているが、ハマスはこれを否定している。

ハマスは昨年10月7日にイスラエル南部を襲撃し、民間人を中心に約1200人を殺害したほか、251人を人質として連れ去った。

これを受けてイスラエルが開始した軍事作戦により、これまでに3万7650人が殺されたと、ハマスが運営するガザ地区の保健省は発表している。

49万5000人以上がなお壊滅的な飢餓に直面

IPCは、国連や援助機関、各国政府によるイニシアチブで、国際社会が飢饉の発生を判断する主要なメカニズム。

フェーズ1から5に分類され、「フェーズ5(壊滅的飢餓または飢饉)」は、ある地域の世帯が極端な食料不足と飢餓に陥り、対処能力が失われている状態を示す。

特定の地域で飢饉が公式に宣言されるには、少なくともその地域の世帯の20%がフェーズ5に該当すること、子供の30%が急性栄養不良に苦しんでいること、そして1万人につき2人、あるいは子供1万人あたり4人が、「飢餓そのもの、または栄養不良と病気の相互作用」で亡くなった証拠があることが条件となる。

IPCは3月、ガザ地区に住む220万人の人口のうち30%にあたる67万7000人をフェーズ5に分類した。この中には、ガザ北部で足止めされている16万5000人も含まれていた。また、紛争と人道支援のほぼ完全な欠如により、5月末までに北部で「差し迫った」飢饉が発生すると予測していた。

イスラエルは、IPCの透明性や方法論、情報源を疑問視し、その分析を否定していた。

今回発表されたIPCの評価では、ガザ地区では北部の6��人を含む49万5000人以上が、依然として壊滅的な飢餓に直面している。

IPCの報告書には、「予測期間(2024年3~7月)の想定とは対照的に、北部に搬入が許可された食料やそれ以外の物資の量は増加した」と記載されている。

「さらに、栄養・水・衛生(WASH)や、保健分野での対応が拡大された。このような状況において、現在飢饉が発生しているとする証拠はない」と述べている。

北部の世帯の約20%がフェーズ5に分類されているものの、急性栄養不良と死亡率のしきい値は超えていないと、報告書は説明している。

世界保健機関(WHO)は6月初旬、現地の保健当局が報告した栄養不良による死者は32人で、うち5歳未満の子どもが28人に上ると発表した。

IPCの報告書は、「ガザ地区全域で飢餓の危険性は依然として高く、継続している」と警告し、4月と5月の改善によって「油断の余地を与えてはならない」としている。

WFPは、IPCの報告書で「わずかな改善」が見られたことは、物資へのアクセス改善が大きな違いにつながることを示すものだが、状況は「依然として絶望的」だと強調した。

「本当に状況を好転させ、飢餓を防ぐためには、十分な人道支援を継続的に提供しなければならない」と、WFPは付け加えた。

一方、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)のフィリップ・ラザリーニ事務局長はジュネーブで記者団に対し、戦争により少なくとも1日平均10人の子どもが片足または両足を失っていると述べた。

ラザリーニ氏は、この数字には手や腕を失った子供たちは含まれていないと述べた。また、通常、切断手術は「非常にひどい状況」で行われ、時には麻酔なしで実施されると話した。

イスラエル軍が学校を空爆、避難民のシェルター

空爆を受けた学校校舎内に座るけが人

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画像説明, 25日に空爆を受けた学校校舎

25日早朝にはガザ北部でイスラエルによる空爆が3回あり、少なくとも24人が殺害されたと報じられた。犠牲者には、ハマスの政治指導者イスマイル・ハニヤ氏の女きょうだいも含まれているという。

ガザ地区の保健関係者はロイター通信に対し、ガザ市のダラジ地区と北部のシャティ難民キャンプで、避難民がシェルターとして使っていた学校2校が攻撃され、14人が殺されたと語った。

イスラエル軍は声明で、戦闘機がシャティとダラジにある「ハマスのテロリストが使っていた構造物」を攻撃したと述べた。

ハマスは以前、学校を軍事目的で使っていることを否定している。

未明に行われたシャティにある住宅への攻撃では10人が殺されたという。近隣の人やパレスチナのメディアは犠牲者を、ハニヤ氏の女きょうだいのザフル氏と、その家族9人と特定している。

ハニヤ氏は4月の攻撃でも、息子3人と数人の孫を失っている。同氏は、親族が殺害されたからといってハマスが態度を変えることはないとし、停戦と人質解放の要求を再確認した。

イスラエル軍は、この報道について今のところコメントしていない。

こうした中、国境なき医師団(MSF)は、25日朝にガザ市で行われた攻撃で、同団体の職員1人が殺害されたとし、「恐ろしく、皮肉な」怒りを感じていると表明した。

MSFは特定の団体を非難せずに、理学療法士のファディ・アルワディヤ氏が、勤務先のMSF診療所まで自転車で向かっていたところ、3人の子供を含む5人の人々と一緒に殺害されたと説明した。

その後イスラエル軍は、アルワディヤ氏を空爆で殺害したと発表、同氏が「重要な(パレスチナ・)イスラム聖戦のテロリスト」であり、同組織のロケット弾部隊を作った人物だと非難した。