よく耳にする「ロジカルシンキング」について、『仕事の不安・悩みがなくなるロジカルシンキング』(苅野 進 著、あさ出版)の著者は次のように述べています。
ロジカルシンキングは、論理的思考力と訳されています。複雑な状況を名探偵のように切れ味鋭く解決する技術のように思われているのですが、実際には違います。
ロジカルシンキングは、明確な模範解答がない問題に対して「上手に試行錯誤をしながら前進していく思考技術」です。(「はじめに」より)
たとえば「営業を成功させたい」「現状を好転させたい」などということに、「こうすれば必ずうまくいく」という正解は存在しません。
しかしそんなとき、「なにをしたらいいのかわからない」という状況を脱し、「次はこうやってみよう」という道筋が見えてくると「恐怖心」は消えていくものだということ。
なお本書では、大きな問題を目の前にして行き詰まったときに思い出すべきスキルを「SATE(さて?)」という4つのスキルにまとめています。
S: Share 問題を他者と共有する
A: Analyze 大きな問題を小さな問題に分解する
T: Try 仮説を持って問題に挑戦する
E: Error 失敗をして、次に活かす
(「はじめに」より)
順序にこだわる必要はなく、いま必要だなと思えたものから実行すればいいそう。
そうすれば大小さまざまな問題に対応できるようになり、結果的に「強い心」すなわち「困難な状況でも動じずに対応する力」が身につくというのです。
このことを踏まえたうえで、きょうはPart 4「うまくShare(シェア)するコミュニケーション技術」に注目してみたいと思います。
巻き込む力が「答え」をつくる
学校のテストには答えが存在しているため、その答えを書けば「正解」になります。しかしビジネスの世界に、模範解答はありません。
「なにをプレゼンすればいいのか?」「どうすれば問題が解決するのか?」というようなことについての答えを探しても、「絶対的な正解」は見つからないということ。
そればかりか、前回はうまくいったプレゼンや解決策が、今回もうまくいくとは限りません。そこに、学校のテストとの違いがあるわけです。そんな状況において、「うまくいきそうな案」を追求することはもちろん大切。
しかしそれと同じくらいに意味を持つのが、「うまくいきそうだ」と相手に受け入れてもらえるように「伝える」こと。
結果が未来のことで不確定なのですから、「とりあえず、これを受け入れて進んでいこう」という「合意」を答えとするべきだという考え方です。
つまりビジネスの世界では、「答え」はどこかに書いてある絶対的なものではないということ。(186ページより)
「本当?」「それだけか?」に応える準備
一般的に、「こうすればうまくいく」という提案を受けているとき、ビジネスマンは「それは本当なのか?」と「有効な案はそれだけなのか?」という2つの疑問を持つもの。
たとえば「この保険に入っていれば安心です」という宣伝を受けたら、「本当に安心なのかな?」「他によりよいものはないのかな?」と考えるわけです。
こうした不安は「合意」するという決断に大きく影響しており、この疑問が払拭されないかぎりは合意に至らないということ。
私たちは、「なんとなく不安だな」と「合意」を決断できないまま「先送り」しがちです。しかし大切なのは、「本当か?」「それだけか?」という疑念にしっかり答える内容を伝えること。
しかもそれは、「本当なんです!」「うちの製品だけなんです!」という熱いけれどなにも答えていないプレゼンでは実現しないものでもあります。(188ページより)
「それは本当か?」という疑問
「算数の成績を上げるために読書量を増やすべきだ」とアドバイスされたら、「読書量を増やす」と「算数の成績が上がる」との間に論理の飛躍を感じることになるでしょう。
しかし、この間の部分を「しっかりと」埋めて説明することで、「それは本当ですか?」という疑問に答えることができることになります。
ただし、「しっかりと」埋まっているかどうかは、相手が決めることだということを忘れるべからず。
延々と「だから」「なぜなら」を聞かされると、逆にまどろっこしいと感じる人もいるでしょうが、しかし準備として細かいところまで論理のつながりを考えておくことは大切。
つまり、状況がどうであれ、いつでも答えを提示できるような準備をしておくべきだということです。
(190ページより)
「それだけなのか?」という疑問
これは、先方の頭のなかに他の選択肢が浮かんでいたり、可能性を感じているということ。
上記の「算数の成績を上げるために読書量を増やすべきだ」という提案に対する「それだけなのか?」という疑問を考えてみましょう。
すると、「算数の成績を上げるために必要なのは、読書量を増やすことだけなのか?」という疑問を持たれていることになります。
つまりそれは、算数の成績を上げるための方法は「もれなく」リストアップされているのか? 検討できているのか? という疑念です。
とはいえ、完全に「もれなく」というのは、現実的に難しいもの。
フレームワークを駆使したり、先方へのインタビューを通じて、「考えもれ」をなくすことが前向きな議論の大前提になるわけです。
少なくとも「可能性」をあれもこれもと羅列して説明するだけでは、「合意」という決断には至りません。
そこで必要でありそうな部分だけを提示し、自分のなかで用意・分析しておいて、いつでも説明できるような準備をするべきだということです。
(192ページより)
著者は、子ども向けロジカルシンキング指導の専門家であり、学習塾ロジム代表。上手に試行錯誤をする」「適切なコミュニケーションで周りを巻き込む」ことで問題を解決できる人材を育成しているとのことで、そのメソッドが本書には生かされているわけです。
仕事のトラブルをスムースに軽減していくため、参考にしてみてはいかがでしょうか?
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Photo: 印南敦史
Source: あさ出版