直径数ミリの“ミニ太陽”を作る「レーザー核融合」は、未来のエネルギー源になり得るか?

太陽の主成分は水素。核融合反応によってヘリウムやさらに重たい元素が生まれている。

太陽の主成分は水素。核融合反応によってヘリウムやさらに重たい元素が生まれている。

muratart/Shutterstock.com

太陽は約46億年前に誕生してから、絶え間なく光り輝いています。

そのエネルギーの源泉となっているのが、太陽の主成分である水素原子同士が融合する「核融合反応」です。

世界で脱炭素化の流れが加速する中、太陽で起きている核融合反応を地上で再現する「核融合炉」が二酸化炭素を排出しない新しいエネルギー源として注目されています。

すでに欧米では、民間から巨額の資金も集まり始めています。

米核融合産業協会(Fusion Industry Association)の2022年版のレポートでは、1年前に調査した頃から新たに28億ドルの追加投資があったと報告しています。核融合産業に民間から投じられた資金は、累計47億ドルにものぼります。

2022年8月末段階での世界の核融合ベンチャーの資金調達金額。

2022年8月末段階での世界の核融合ベンチャーの資金調達金額。

表:編集部作成

アメリカでは、11月4日にバイデン政権が2050年までのカーボンニュートラル達成に向けた「Net-Zero Game Changers Initiative」を発足させ、15億ドルの投資を発表しました。そこで注力する5つのイノベーションの1つとして、核融合技術が挙げられています。また日本でも、2023年春を目処に国としての核融合戦略の策定が進められています。

世界で核融合に対する期待が高まる中、研究開発の主流となっているのは、フランスで建設されている国際プロジェクト「ITER」や、日本の茨城県那珂市にある「JT-60SA」という実験装置が採用している、磁力を利用する「磁場閉じ込め型」と呼ばれるタイプの核融合炉です。

しかし研究現場では、磁場閉じ込め型とは異なる手法で核融合を実現するための研究開発も進んでいます。今回特に注目したいのが、超高出力のレーザーを用いて核融合を発生させる「レーザー核融合」です。

実は、レーザー核融合が実現すれば、核融合炉の応用可能性はさらに広がるのではないかと期待されています。

そこで11月のサイエンス思考では、核融合産業におけるレーザー核融合の位置づけや、そこから広がる他の産業への応用の可能性について、大阪大学レーザー科学研究所の藤岡慎介教授に話を聞きました。

レーザーで「ミニ太陽」を作る

チャンバー内で実験用の標的に調整用のレーザーを当てているようす。

チャンバー内で実験用の標的に調整用のレーザーを当てている様子。

画像:藤岡教授

「レーザーを使って高温・高密度の水素の塊であるミニ太陽を作り、エネルギーを取り出す。これがレーザー核融合です」

藤岡教授は「レーザー核融合とは何か?」と非専門家に尋ねられたときにはこう説明することが多いとBusiness Insider Japanの取材に語ります。

太陽の中心部は、温度が1000万度以上、気圧も2000億気圧以上という極限環境です。レーザー核融合では、超高出力のレーザーを使うことで「太陽よりも温度と密度が少し高い状態を作る」(藤岡教授)のだといいます。

大阪大学レーザー科学研究所の藤岡慎介教授。

大阪大学レーザー科学研究所の藤岡慎介教授。

提供:藤岡教授

このような極限環境では、太陽の主成分である水素は原子核(水素の原子核は陽子1個)と電子に分離した「プラズマ」の状態になり、4つ結合することで「ヘリウム」へと変わります。そしてこのとき、同時に大量の熱を放出します。これが「核融合反応」です。

太陽では、膨大な量の水素が核融合反応を起こし続けることで、誕生してから約46億年もの間ずっと光り輝き続けています。この反応を人工的に再現し、そこで得られるエネルギーを発電などに活かそうとしているのが「核融合炉」なのです。

2022年4月に撮影された建設中のITER。

2022年4月に撮影された建設中のITER。

画像:ITER機��

フランスで建設中の「ITER」や日本の「JT-60SA」など、磁場閉じ込め型の核融合炉では、磁力を利用することで燃料である水素(三重水素と重水素)の「希薄なプラズマ」を炉内に閉じ込めています。プラズマを長時間閉じ込めることで、時折原子核同士がぶつかり、核融合反応が起こるのです。

そのため磁場閉じ込め型の核融合炉では「いかにプラズマを長時間、安定的に留めるか」が非常に重要なポイントになります。

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