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詩学、批評の解剖、書くことについて、映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと、ライターズ・ジャーニー等々、「物語の作り方本」のエッセンスを濃縮した『物語のつむぎ方入門』

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数学の公式集ってあるでしょ。よく使う関係式や定数や演算を、コンパクトにまとめたやつ。あれの物語版だと思ってほしい。

「なぜそうなのか」といった証明や由来は最小限にして、エッセンスしか載ってない。なので非常に薄い(なんと61頁!)。もし必要なら、自分で出典に当たってくれとばかりに参考文献だけは充実している。

この61頁に、「読者の興味をどうやって興味を惹くか」の基本的なセオリーがまとめられている。小説、マンガ、映画、演劇、どのジャンルにも共通して、物語を面白くするプロットの作り方がある。そして、そのプロットをどう転がせば、読み手や観客の魂を震わせ、深い感動をもたらすかが紹介されている。

いわば、物語作家の虎の巻なのだが、公式集であるが故に、注意すべき点がある。要点というか骨子しか書いていないので、不慣れな人には不親切かもしれぬ。

だから、本書の想定読者は2種類になる。

想定読者1:物語の作り方知っている人

まず最初は、ある程度こうした「面白い物語を作る方法」を知っている人だ。

物語作家や字書き、あるいはネーム作家をやってて、セオリーはある程度知っている。その人の本棚にはシド・フィールド『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと』とかキング『書くことについて』とかフライ『批評の解剖』があるかもしれない。

物語を面白くするセオリーには名前がある。アリストテレスの3幕とかホラティウスの5幕とか、ヴォネガットの「穴の中の男」、キャンベルの「ヒーローズジャーニー」、プロットポイント、伏線の9パターン、チェホフの銃とマクガフィン、スノーフレーク法などよりどりみどりだ。

こうしたセオリーを俯瞰して、自分の持ってる武器だけじゃなくて、もっと幅広く揃えたい人には、宝のカタログに見えるだろう。ちょっと見れば自分がモノにしている方法か、あるいは初見の方法論か見分けられるはず。知らない方法論を見つけたら、そこで紹介されている文献に当たればいい。

想定読者2:「自分にとっての」面白い物語を持っている人

次の人は、自分がハマった面白い作品を持っている人だ。

小説であれ映画であれ漫画であれ、心の底から「面白い!」と断言できる物語を知っている人だ。有名だからとか新刊だからといった理由で選ぶのではなく、面白いから読みたい・観たい人に勧めたい。

おそらく、なぜそれが面白いのか、漠然としてて説明しにくいかもしれない。「ちゃんと言えないけれど、なぜか好きなんだ」という人がこれを読めば、ずばりハマった理由(セオリー)が書いてある。

そして、シェイクスピアからもののけ姫まで、面白くするセオリーを応用した作品が大量に並んでいる。なので、自分がハマった作品を面白くする方法から、自分が知らない(でも同じセオリーで面白くなっている)別の物語を逆引きすることだって可能だ。

逆に、お薦めできない人は、全くの初心者だ。本書は「入門」と銘打っているが、中身は濃厚かつ幅広く、その短さもあって読み流してしまうかもしれない。公式集だけで数学を学ぶ人がいないように、本書だけでプロットを学ぼうとしても無理がある。

解説の元となっている文献にあたるか、あるいは、解説で紹介されている他の作品そのものを味わうことで、「面白さ」をモノにしてほしい。



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