※本記事は、2012年に執筆し、同人誌『F』第10号(特集:擬装・変身・キャラクター)に掲載したものです。 〈リアル/フェイク〉という問題系 ごくごく個人的な理由であまり好きな作品とは言えなかったが、それでも『デトロイト・メタル・シティ』は、僕に何事かを考えさせるものだった。よく知られたそのストーリーは、本当はネオアコなどのいわゆる渋谷系的な音楽が好きな主人公の根岸が、にも関わらず、実際はメタルバンドのカリスマとなってしまうというもので、そこでは根岸の内面とは無関係に強度が与えられていくパフォーマンスが描かれていた。 たしかに内面とか言われるものほど、生ぬるいものはない。僕は職業上、高校生に小論文を書かせたりする機会があるのだが、高校生というものは「自由に書いて良い」と指示するときほど、なんと予定調和な文章を書いてくることか。文学作品を読ませれば、千田洋幸の指摘(注1)をなぞるかのように「