キッチンの棚を開けてみると、コーン缶やひよこ豆の水煮缶、ツナ缶など、缶詰食品が見つかる家庭は多いはず。多くの人が缶詰食品をストックしている理由はそれなりにある。缶詰食品は作り置きや節約料理にピッタリの食材だし、私たちが摂取量を増やすべき野菜や魚介類を手軽に食べられる優れた手段。「トマト、豆類、かぼちゃ、ツナ、サーモンの缶詰は素晴らしく健康的で、賞味期限も長いので非常に便利です」と話すのは、ニューヨーク在住の栄養士のカレン・アンセル。

缶詰食品は新鮮な食材に比べて栄養が劣っていると思われがちだけど、缶詰に食品を詰める工程が、食品に含まれるタンパク質、炭水化物、脂質、ミネラル、脂溶性ビタミン(A、D、E、Kなど)の含有量に影響することはない。ただし、缶詰加工には加熱処理が必要なため、特定の水溶性ビタミン(CやBなど)が多少失われている可能性がある。栄養の損失の程度に関しては、食品によって異なる。

一方で、多くのメリットを兼ね備える缶詰食品にも多少のリスクがあり、専門家が抱く最大の懸念は、「缶」自体にあるという。「缶の多くには、特定のホルモンに影響を与えるBPAという化学物質が含まれています。血圧上昇やがんのリスクが増加したり、行動上の問題を引き起こす可能性があるものです」とアンセル。

缶詰食品に含まれる「BPA」ってなに?

エストロゲンに似た化学物質「BPA(ビスフェノールA)」は、缶詰の内側の金属が錆びないようにするために、1960年以来、缶詰のコーティングに使用されてきたもの。問題は、この化学物質が缶詰の中の食べものや飲みものに溶け出してしまうこと。

現にBPAが及ぼす完全な影響は未だに不明であり、ほとんどの研究が動物を対象に行われている。それでも多くの医師や科学者は、BPAが性ホルモンのエストロゲンとテストステロンの作用を変化させ、生殖器系や脳に影響を及ぼす可能性を懸念している。

実際にBPAが脳やホルモン系の機能を乱す可能性を示すエビデンスは存在している。『Clinical Endocrinology』誌に掲載された2016年の研究では、BPAが女性のインスリン抵抗性と肥満に関連している可能性が示された。ラットを用いた2017年の研究では、妊娠中に低濃度のBPAに晒されると、空腹ホルモンに対する体の処理の仕方に変化が生じることがわかった。要するに、空腹と満腹のシグナルを理解する脳の能力が影響を受けてしまうとのこと。また、他の研究では、高濃度のBPA暴露が乳がんや多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの代謝性障害に関連することが示されている。

ところが、最大の懸念点は妊娠中のBPA曝露に関することであり、「人間は、胎児が発育中にBPAに晒されると、後に問題行動(多動や攻撃性など)、思春期の乳房の発達、肥満、糖尿病、心臓病、肝機能に変化が生じるリスクが増加する恐れがあります」と説明するのは、マウントサイナイ医科大学の環境医学・公衆衛生学・小児科学の准教授を務めるマイダ・P・ガルヴェス医師。

米国国立環境健康科学研究所(NIEHS)によると、BPAは歯科で行うシーラント治療や医療機器、家電製品、レシートなど、多くのものに存在しているが、主な曝露源となるのは私たちが摂取する食品だという。ジョンズ・ホプキンス大学が2016年に行った研究では、缶詰食品を1日1つ摂取した人は、まったく摂取しなかった人に比べて、BPAの尿中濃度が24%上昇し、缶詰を2つ以上摂取した人は54%まで上昇することがわかった。

BPAの安全摂取量はどのくらい?

アメリカの一部の専門家は、摂取量を最小限に抑えるべきだと助言している。ガルヴェス医師が指摘する経済連携協定(EPA)の報告書によると、体重1kg当たり1mg未満、および1日あたり2μgほどの低用量でさえも人体に悪影響を及ぼす可能性が一部の動物実験で示されている。

BPAのリスクと安全性においては、金融庁(FSA)は現在調査中と言及しており、2018年9月以降、乳児と三歳未満の子どもの食品にはペットボトルやプラスチックの包装が禁止されている。

「どうして私たちは、人体の健康に潜在的な懸念をもたらす素材をいつまでも使用し続けるのでしょうか? 市場前の安全性試験や食品ラベルの透明性、代替品が実際に安全であることを保証することは極めて重要です」とガルヴェス医師。

現時点でイギリスでは、缶詰食品の約10%にBPAが使われており、アメリカでは依然としてより広範に使われているとのこと。2016年の報告書によると、アメリカで検査された缶詰の3つのうち2つにはBPAが含まれていた。また、2007年に米国疾病管理予防センターが発表した研究によれば、アメリカ人の約90%以上の尿中にBPAが検出されている。

(編集部注:日本では2024年5月現在、規制は設けられていない。厚生労働省の方針はこちら

ガルヴェス医師は、可能な限り新鮮な、または冷凍の野菜と果物を購入し、缶詰食品や加工品を避けるようにアドバイスしている。研究によると、加工や缶詰加工されていない新鮮な食品を選ぶことで、体内のBPA濃度を減らすことができるそう。また、BPAの含有量は食品によってもかなり異なることを念頭に置いておくべき。2009年にコンシューマー・レポートがスープやジュース、ツナ、野菜を含め、19種類のメーカー品に含まれるBPA濃度を測定した結果、BPA濃度がもっとも高かったのはインゲン豆とスープの缶詰であることが明らかになっている。

結局のところ、缶詰食品は食べないほうがいいの?

multiple fish tin cans placed repeatedly in a pattern
Daniel Grizelj//Getty Images

BPAの潜在的なリスクに加え、アンセルは缶詰食品の多くが高塩分であることを指摘した。ナトリウムの過剰摂取は、腹部膨満感やむくみにつながる(高血圧やその他の恐ろしい健康上の問題との関連性については今も議論されている)ため、栄養成分を読み、他のメーカーのものと比較しながら、できるだけ無塩、または減塩のものを選ぶことが大切。

減塩のものが見つからないときは、ナトリウムの摂取量を一食あたり500mgまでに抑えることと、缶詰食品の豆などは一度冷水で洗うことを多くの栄養士が推奨している。そうすると、缶詰食品に含まれるナトリウムを40%減らすことができるそう。ツナに関しては水銀が含まれているため、国民保健サービスは週に4缶以上のツナ缶を摂取しないように助言している。

缶詰食品には確かにデメリットもあるけれど、良心的な価格で野菜を手軽に食べられる手段でもあることをアンセルは強調している。「もちろん、缶詰食品だけで食事を済ますことはオススメできません」とアンセル。「ですが、缶詰食品を1日1食分程度食べることに関しては、私は懸念しません。もしそれが、豆類や野菜など健康的な食材を食べるのに役立っているのであればなおさらです。多くの人が、野菜や豆類を十分に摂取できていないからです」

どうしてもBPAが気になる場合は、できる限りBPAフリーの缶詰を探し、そうでない缶詰は避けるようにすること(2009年のコンシューマー・レポート誌の報告書によると、BPAフリーの缶でも低濃度のBPAが食品に溶け出すことはあるけれど、BPAフリーでない缶詰に比べるとはるかに少量で、ツナ缶は20ppb、ベイクドビーンズ缶は1ppb程度となっている)。
 
※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: COLLEEN DE BELLEFONDS Translation : Yukie Kawabata


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Colleen de Bellefonds

Colleen de Bellefonds is an American freelance journalist living in Paris, France, with her husband and dog, Mochi. She loves running, yoga, and wine, and is very particular about her baguettes. 

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川畑 幸絵
翻訳者

短大卒業後バンクーバー、メルボルンで2年留学した後、外資系客室乗務員として勤務。2018年に退職後、翻訳者としてフリーランスに転身。アメリカで統合栄養学を学んだ経験もあり。