2023年春夏コレクションは、パリス・ヒルトンといったセレブがランウェイを歩いたり驚きに満ちた演出で盛り上がり、数多くのバイラルな瞬間を生み出した。肝心のファッションの多くは、世界的な関心を集めるさまざまな出来事を反映したようだった。女性の権利、戦争、環境問題など──私たちの日々の生活に影響を与える物事が、さまざまな形でコレクションに落とし込まれた。
アシンメトリーなカットワークやほつれを残したディテール、古さを感じさせるシワ加工など、あえて未完成のように仕上げたニュアンスの数々。また、不安な状況下での備えに対応するような、ハンズフリーのカーゴポケットやパラシュートストラップといった実用的なディテール。また、クリエイティブな防具を提案するブランドも目立ち、危機的状況がさまざまな形で多くに影響を与えたことを物語っていたようだ。
一方で、フェザーや煌めくメタリック、手触りの良い上質なファブリックなど、心を和らげるような心地よい素材使いも今季の特徴だ。また、ポストパンデミック時代の新しい働き方に焦点を当て、ミニマルなテーラリングやボタンダウンシャツなど、フレッシュなワーキングウェアも多く打ち出された。
Y2Kの美学も未だに健在のようだ。ボディコンシャスは極端な露出よりもドレープやシアー素材を使い、よりエレガントな肌見せにシフト。ハリー・ベイリー主演で来年公開予定の実写映画『リトル・マーメイド』に登場しそうなウニやクラゲを連想させるディテールや幻想的なシルエットも印象的だ。
さらに、16世紀のエリザベス1世時代のクリノリンやパニエを始めとする、ヨーロッパ貴族が着用したような歴史的ドレスを想起させるものも。と同時に、乳首を解放したり胸もとを露わにする服も多く登場。一見両極端に見えるが、どちらも女性の自立や自由の権利などをメッセージがうかがえる。ランウェイで打ち出された新たな女性像をトレンドという視点で見ていこう。
1 ハンズフリーで行動に自由を
カーゴパンツやパラシュートストラップ、パッドが付いた服など、行動に自由を与える服がトレンド入り。ミュウミュウ(MIU MIU)はビッグポケット付きのベルトを提案。ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)はポケットのほか、アイレットやビッグジッパーなど、インダストリアルなディテールを盛り込んで、セットアップをモダンにアップデートした。
2 次世代ワークライフに向けた、新感覚ユニフォーム
ポストパンデミック時代のワークウェアは、シンプルなテーラードとニュートラルな色使いがポイントになりそうだ。マイケル コース(MICHAEL KORS)は、スウェット地にドレープを施してエレガントかつフレッシュなセットアップを打ち出した。シンプリシティーを追求したドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)からは、ニュートラルカラーのロングコートが登場。シガレットパンツと合わせたコーディネートは、スリークなワークスタイルにぴったりだ。
3 パニエとクリノリンが現代に復活
18世紀から19世紀前半にドレスの下に使用されていたパニエやクリノリンを現代風にアレンジしたデザインが新鮮だ。ロエベ(LOEWE)は、ロココ時代のローブ・ア・ラ・フランセーズから影響を受けたような、横に広がるシルエットをブラックドレスで実現。また クリストファー ケイン(CHRISTOPHER KANE)は、透ける素材で丸みを帯びたバルーン風スカートを生み出し、軽やかに昇華した。
4 とろみ素材で叶える身体美
ボディコンシャスは今季も健在だが、なめらかなジャージーやシルク素材のソフトなスタイルにシフトするよう。中でも多くみられたのが、柔らかなテクスチャーを生かしたドレーピング。サンローラン(SAINT LAURENT)からは、頭までをすっぽりと包むコンテンポラリーなドレスが登場。フェンディ(FENDI)は、ボディの中央まで続くワンショルダーディテールで、流れるような美しさを強調した。
5 定番の白シャツに一捻りを
脱ベーシックな白シャツにも注目を。ヴァレンティノ(VALENTINO)のバルーンシルエットや、ピーター ドゥー(PETER DO)のビッグスリーブなど、ミニマルながらもインパクトを放つデザインがいつものコーデを格上げしてくれるはず。
6 ラフィアやフェザーで五感を刺激
ラフィアやフェザーをフリンジ状にした華やかな服たちがランウェイを彩った。インパクトはもちろん、それらが奏でる音や触りたくなるテクスチャーなど、五感を刺激する要素で改めてファッションの楽しさを提示した。
7 美しき“マーメイド・コア”
ノームコアやバービーコアなどがファッションの重要キーワードとして登場していたが、最新の春夏では、“マーメイド・コア”という言葉を耳にすることになりそうだ。ブルマリン(BLUMARINE)は今季、ダークなマーメイドを着想源に掲げ、なめらかなIラインシルエットをデニムで打ち出した。ネンシ ドジャカ(NENSI DOJAKA)は、得意のシアースタイルに大きなスパンコールを配し、人魚の尻尾のような幻想的なデザインを発表した。
8 現代社会を生き抜く戦士たちに
現代社会の緊張状態を反映してなのか、鎧のような強さを表現するルックが打ち出された。ドルチェ&ガッバーナ(DOLCE & GABANNA)は、メゾンのアイコニックなスチール製ドレスが20年の時を経て、再びランウェイに登場。近未来的なシルバーの卵型ドレスで注目を浴びたのは、ジェイ ダブリュー アンダーソン(JW ANDERSON)。
9 女性の裸体美を表現
フリー・ザ・ニップル運動に賛同するデザイナーたちが、クリエイティブな思考を駆使して女性の裸体の美しさをさまざまな形で表現。その一例が、アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOSのパンツルック。ジャケットに大胆なカットを施し、その中から胸に配したバラを見せることで、静かながらも力強さを打ち出した。一方で、スキャパレリ(SCHIAPARELLI)は得意とするシュールな手法を用い、トロンプルイユ柄のイヴニングドレスを生み出した。
10 アシンメトリカルなシルエット
不透明な時代を表すかのように、無秩序的なアシンメトリーシルエット。双子のモデルをランウェイに登場させて注目を浴びたグッチ(GUCCI)は、斜めにカッティングされたロングドレスからシアーなソックスとのぞかせた。シワ加工を施したレザーでモダンに仕上げたのは、ミュウミュウ(MIU MIU)。巧みに調理された色とシルエットの妙は、現代アート作品のようだ。
Photos: GoRunway.com Text: Laird Borrelli-Persson Adaptation: Sakurako Suzuki
From VOGUE.COM
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