FASHION / TREND & STORY

パロマ・エルセッサーやシンディ・クロフォードetc.、年齢も体型も異なる7人のモデルが語る「ありのままの美しさ」。

PHOTOGRAPHED BY ZOË GHERTNER
STYLED BY JULIA SARR-JAMOIS

多様性のある社会を目指し、さまざまな体型に対応できる素材やデザインを取り入れるブランドが増えている。パロマ・エルセッサーやシンディ・クロフォードなど、年齢も体型も異なる7人のモデルに、ファッションと体型の複雑ながらも力強い関係について話を聞いた。

「自分の身体に対する意識が完全に変わりました。この子を生み、育てた身体なんだと」── アンバー・ヴァレッタ

90年代のファッションシーンを牽引したスーパーモデルのアンバー・ヴァレッタ(48)。現在は、環境活動家としても活動している。 ドレス 参考商品/DSQUARED2(ディースクエアード スタッフ インターナショナル ジャパン クライアントサービス) 中に着たスウィムスーツ/AWAY THAT DAY(awaythatday.com)

「ボディ」が戻ってきた。これが、2022年春夏のランウェイから届いたニュースだ。ロックダウンの間、ジャージーの下に隠されていた肌が再び露わになる。ディオール(DIOR)のミニスカートから伸びた脚。ミュウミュウ(MIU MIU)のローライズボトムからのぞくへそ。ブラ、クロップドトップ、大胆なカットアウトが強調する素肌は、ロエベ(LOEWE)からマイケル コース(MICHAEL KORS)まで、あらゆるブランドで見られた。透け感、どんなカーブにもフィットするファブリック、砂時計のシルエットを描くテイラードのアンサンブルも注目のテーマだ。コロナ危機が収束しつつあるように見えた時期にデザインされたこれらのコレクションは、楽観的なムードをたたえながら、私たちにこう語りかける。さあ、外に出よう、楽しもう、自分を世界に見せつけよう、と。

「私は自分を愛してる。だから、あなたも自分を愛して、と伝えたい」── パロマ・エルセッサー

「自分ではなく、システムが変わらなければならないのだと、自分に言い聞かせる必要があるんです」と、ボディポジティブのムーブメントの潮流を生み出したうちのひとりであり、新世代モデルとして活躍するパロマ・エルセッサー(29)は語る。 ドレス ショートパンツ/ともにPHILOSOPHY DILORENZO SERAFINI(www.philosophyofficial.com)

この変化は、ある意味ではファッションの世界ではおなじみのものだ。前回、ファッションブランドがボディコンシャス、いわゆるボディコンと呼ばれるルックをこぞって提案したのは、欧州と米国が2001年9月11日に起きた同時多発テロと、その後のイラク侵攻に続く低迷期を脱した、2000年代(ゼロ年代)の半ばだった。当時のファッション業界は男性のデザイナーたちが牽引していた。その筆頭が、ロンドンを拠点に新進気鋭のデザイナーとして活躍していたクリストファー・ケインだ。翻って今回はドナテッラ・ヴェルサーチェからスプリヤ・レーレサラ・バートンからアニファ・ムヴェンバまで、世界中の女性デザイナーたちが大胆な提案をしている。

変化したのはトレンドを生み出す側だけではない。それを受け入れる女性の側も変化した。ランウェイでもストリートでも、あらゆる体型の女性たちが最新のルックを身に纏っている。それは解き放たれた肉体への賛美であり、自分の身体は見せるにたるものだろうかとびくびくしていた過去のボディコンシャスとは一線を画すものだ。時代は変わり、ファッションはようやく、年齢、性別、能力、スタイルを問わず、すべての身体は素晴らしいのだという新しい世代の認識に追いついた。

「私はこれをボディコンフィデンス(自分の身体への自信)と捉えています」と言うのは、デザイナーのスプリヤ・レーレだ。この自信こそ、彼女のブランドに幅広い顧客を引き寄せ、直販店の売り上げを過去2年間で4倍にふくらませたものだ。「『人の言葉なんて気にしない。私は着たいものを着る』というムードが漂っています。人々が求めているのは喜び、安堵、そして楽しさです。私は自分の服も着ますが、正直に言って小枝のように細いわけではない。胸もお尻もしっかりある。それでも『これが私』と思えるのです」

「私は髪が茶色かったので、最初は“エキゾチック”だと思われていました」── シンディ・クロフォード

1980年代、スーパーモデルのシンディ・クロフォード(56)は異なる基準や期待に立ち向かった。 ドレス/ALBERTA FERRETTI(www.albertaferretti.com) 

レーレのコレクションは、ただ肌を見せているわけではない。その露出はプロポーションやシルエット、女性性の概念を探求する過程で生まれた副産物であり、彼女のルーツであるインドの伝統と(サリーのドレープは重要なテーマだ)、彼女が成人したY2K(2000年)前後の時代│ローライズデニムの時代から着想を得ている。換言すれば、レーレはファッションを、新しいシックをつくっているのだ。では、隅に追いやられたものは何か。バルマン(BALMAIN)オリヴィエ・ルスタンの言葉を借りれば、「体型と結びついたシック」に関わるものすべてである。

「ファッションは長年、何がエレガントで何がクールなのかに関する固定観念にとらわれてきました。その結果、あるべき形でない身体は見せるべきではないと女性たちに思わせてしまったのです」とルスタンは言う。「でも、それは間違っている。そのことを教えてくれたソーシャルメディアには感謝しなければなりません。この世界規模のコミュニティが今、ファッション業界に向かってこう言っているのです。『狭い世界から出て、現実を見よ』と」

「人生で初めて自分の身体の声に耳を傾けることができ、自分がいかに強いかを実感したのです」── ミア・カン

モデルだけでなく、テレビ司会者やムエタイファイターなどさまざまな肩書きを持つミア・カン(33)。20代でムエタイに出合ったことは、彼女にとって大きな転機となった。 ドレス 参考商品/DOLCE & GABBANA(ドルチェ&ガッバーナ ジャパン)

「“自分の身体をどうすれば良く思えるか”ということを、まだ模索しているところなんです」── イマン・ハマム

トップモデルという名声を活用し、SNSで悩みを解決するヒントやモチベーション維持につながるメッセージを発信する、イマン・ハマム(25)。 スウィムスーツ ¥88,000 スウィムトップ ¥66,000/ともにCHANEL(シャネル カスタマーケア)

「ボディ」を持つとは、何を意味するのか。

「ボディ」���持つとは、どういうことなのか。自分自身であること、肉体を持って生きるとは、どういうことなのか。女性の場合、その答えは絶えず変化する。あるときは、官能的な喜びをもたらすもの。またあるときは、走り、踊り、引っ張り、持ち上げる力を与えてくれるもの。子どもを産み、自らを癒やし、音波を音楽に変換するもの。ボディは驚くべきものであると同時に、往々にして問題ももたらす。それは鏡に映し出される、目を背けたい現実だ。平らな胸、たるんだ太もも、ゆがんだ脚、妊娠線、ふぞろいな歯。背が低すぎる、年をとりすぎている、そして「筋肉質すぎる」──これは陸上競技のスター選手だったジェニール・ウィリアムズが、モデルとしてのキャリアを歩み始めた頃に投げつけられた言葉だ。「ショックでした。オリンピックチームのメンバーとしてトレーニングを重ね、自分のすべての筋肉を愛していたのに『この娘はだめだ。強すぎる』と言われたんですから」とウィリアムズは振り返る。彼女は、この特集の撮影に参加してくれた7人の類いまれな女性の一人だ。「私はこれを挑戦だと受け止め、痩せようと決意しました。ひたすらジョギングをして、パンはもちろん、おいしいものは絶対に口にしない。そうして、どこまで痩せられるか試してみたんです。努力は実を結び、仕事がたくさん来るようになりました」と彼女は言う。「でも同時に、自分の身体が嫌いになっていきました。愛憎相半ばして、自分の気持ちが混乱しました」

「私は自分の身体と心を別々のものとして考えていました」── アリエル・ニコルソン

アメリカ版『ヴォーグ』の表紙に初めて登場したトランスジェンダーモデルであり、アクティビストとしても活躍するアリエル・ニコルソン(21)。思い悩んだ過去について、「自分の身体は邪魔なものだと感じていました。見られるのが嫌だったんです」と話す。 ドレス ¥1,100,000/VALENTINO(ヴァレンティノ インフォメーションデスク)

よく知られているように、ファッションの歴史上、この業界が賛美してきた肉体は基本的に1種類しかない。つまり、背が高く、痩せていて、若く、五体満足で、シスジェンダーで、一般的には白人だ。こうした特性を備えていること、それ自体に問題はない。しかし長年にわたって女性の美の理想とされてきた類型に運良く生まれついたからといって、それが本質的に正しいということにはならない。この理想がもたらした社会的・心理的な代償はきわめて大きく、ダイエットや美容整形、アンチエイジングをうたう企業が上げている数十億ドル、数兆ドルという利益を相殺するほどだ。しかも、この代償はドルやポンドの形で支払われるだけでなく、ウィリアムズが言うように、自分の身体に対する愛憎入り交じった感情を女性たちにもたらし、精神的に苦しめるようになった。『ヴォーグ』に過去を変える力はない。しかし、極端な美の理想を女性たちに押しつける上で『ヴォーグ』が果たした役割を認め、より良い方向へ舵を切る約束をすることはできる。この特集の狙いは、さまざまな顔や体型を持つ人々をページにちりばめることではない。女性のありのままの姿を讃え、自分の外見に対する不安から解き放つような方向へと、ファッション業界を進化させることである。

「オリンピックチームのためにトレーニングをして、自分の筋肉を愛していたのに、『筋肉質すぎる』と言われたのはショックでした」── ジェニール・ウィリアムズ

モデルを始める前は陸上競技のスター選手だったジェニール・ウィリアムズ(32)。 ボディスーツ 参考商品/DIOR(クリスチャン ディオール) 

「これはファッションに対するまったく新しいアプローチです」と語るのは、バルタザール・デルピエールとともに、2019年にブリュッセルで自身の名を冠したブランドを立ち上げたエステル・マナスだ。「私に似た女性たちのために、ヨーロッパサイズのブランドを作りました。私のサイズは44か46です(英国サイズで16、18前後)。こういう体型なので、いつも自分のための服はないと感じていました」。マナスとデルピエールがデザインするコレクションには明確な方向性があり、すべての服は基本的にフリーサイズだ。「パターンを工夫し、どんな体型にも合うようにしています。たとえ妊娠しても同じ服が着られますよ」とマナスは言う。これは解放の一つの形かもしれない。デザインの力によって、女性たちを体重計と巻き尺から解き放つのだ。

もっと個人的な解放もある。例えば、ウィリアムズはスポーツで鍛えた身体を鋼の意志で極限まで薄くしたが、娘を出産したあと、どうしても腹の贅肉が消えないことに気づき、呆然としたという。「とてつもなく落ち込みました」と振り返る。「でもある日、授乳をしながらふと見ると、娘が私の脂肪で遊んでいました。私の脂肪が気に入ったみたい。そのときに思ったのです。『娘が私の身体を愛しているなら、私も自分の身体を愛せるはずだ』って」

ファッション誌も解放の手段になる。私は米国フロリダ州中央部で育った。私を抑圧してきた美の理想は高校時代のものだ。人気のある女の子たちはみな小柄で、鼻が小さく、ブロンドだった。映画『アメリカン・パイ』のタラ・リードを想像してもらえばいい。

私が自分の美しさに気づくことができたのは『ヴォーグ』のおかげだ。シャローム・ハーロウの弾むような巻き毛、グィネヴィア・ヴァン・シーナスの力強い眉と直線的な顎のライン、シンディ・クロフォードの広い肩幅と官能的な自信。「モデルを始めたばかりの頃は『エキゾチック』だと言われました。髪が茶色だったから」とクロフォードは笑う。「あの頃は、モデルといえばブロンドでした。クリスティ・ブリンクリーやシェリル・ティーグスみたいに」。モデルには時代が反映される。個性的な顔が大切にされる時代に青春を送ったことは、私にとっては幸運だったが、90年代のモデルはとてつもなく痩せていた。2000年代初頭にファッション業界を席巻した東欧の女の子たちほどではなかったにせよ、私の筋肉質な身体はスレンダーだったが巨大に見えた。妄想ではなく、私は見知らぬ人からよく「モデルをやってみたら」と言われたが、それは常に「もし痩せたら」という条件付きだった。

痩せる=幸せという価値観。

ドレス 参考商品/MICHAEL KORS COLLECTION(マイケル・コースカスタマーサービス)

この特集の撮影でロサンゼルスを訪れていたとき、セットにいたミア・カンにこの話をすると、「ああ、分かる」と頷いてくれた。「昔は毎晩、『朝起きたら痩せていますように』とお祈りしてから眠っていました。痩せれば幸せになれると信じていたんです」。カンは香港育ちだ。太っていることを理由にいじめられ、13歳のときに拒食症になった。しかし飢えは彼女に見返りをもたらした。「私をいじめていた男の子たちがデートに誘ってくるようになりました。いよいよ痩せ細ってくると、今度はスカウトされたんです」。摂食障害を抱えたまま、カンはモデルとしてのキャリアをスタートさせる。時がたち、身体が大人の女性の曲線を描くようになると、症状はさらに悪化した。思春期の体型を保とうと下剤を飲み、食欲を抑えるためにひっきりなしにタバコを吸った。27歳のとき、追い詰められたカンは数日間の休息を求めてタイへ飛んだ。そして、たまたま通りがかったムエタイのジムにぶらりと入る。「次の日も行き、その次の日もまた行き、結局半年ほど滞在しました」

カンは現在、ムエタイの選手として活躍している。しかし彼女はキックやパンチ、エルボーの技術以上のことを学んだ。「ジムにいたとき、突然ひらめいたんです。自分がどう見えるかなんて、どうでもいいことだって。それ以来、自分の外見について考えるのをやめました」と、カンは言う。「生まれて初めて、自分の身体の声を聞くことができました。自分の身体を信頼し、自分の強さに気づくことができたのです」

ボディポジティブ」は最近の流行語だが、女性たちの役に立つ言葉ではないかもしれない。この言葉は、ざっくりと言えば、どんな体型でも自分を魅力的だと思うべきだという意味を持つようになった。これは真実だが、痩せれば称賛されるというメッセージを女性に送り続けている文化の中では、不可能でもある。13歳のミア・カンはほかにどんな教訓を得ただろう。ムエタイによって彼女が成し遂げた変身は、外見に注目する「ボディポジティブ」から、哲学者のセリーヌ・ルブーフが言うところの「ボディプライド」への転換を示している。フロリダ国際大学の講師で、このテーマに関する重要な論文を何本も執筆しているルブーフは、ボディプライドを「身体を楽しむこと──その感覚や機能を楽しむこと」だと説明する。「自分を常に物として捉え、美的観点から身体を評価していると、身体と心の一体感が失われます」

ルブーフによれば、「ボディプライド」の反対語は「ボディシェイム」だ。前者が、例えば恋人に触れられたときの胸の高鳴りのような、一瞬のできごとに根ざした完全に個人的なものであるのに対し、ボディシェイムは社会的要求とタブーの産物である。これは新しい現象ではない。女性の身体は昔から、批評してもよい公共財だと考えられてきた。ボディシェイムは、人々が女性の身体にあれこれと文句をつけるときに生まれるが(セレーナ・ゴメスは太って嘲笑され、アデルは痩せて非難された)、その刃は文句をつけた本人にも返ってくる。つまり、ほかの女性の見た目を良いとか悪いとか批評するとき、私は無意識のうちに自分の外見について、また他人が私を見てどう評価するかについて考え、自分自身も傷つけているのだ。

「私は長い間、自分の身体を邪魔者だと考えていました。身体と心は別で、心のほうが重要だと決めつけていたのです」とアリエル・ニコルソンは振り返る。「見られたくない、できることなら消えてしまいたい、そう思っていました」「醜形恐怖は手ごわい病です」と、モデルのイマン・ハマムは言う。「自分の写真を見ると、太っていると思ってしまう。食べられない時期が続きました。1日2回のトレーニングをこなし、さらにビクラムヨガも行って、水太りを解消しようとしました。どうしたら自分の身体に満足できるのか、今も模索し続けています」

ドレス ¥224,400/DRIES VAN NOTEN(ドリス ヴァン ノッテン)

パロマ・エルセッサーは、「私は自分に似た女性、つまり完璧に平らなお腹を持たない女性たちが、私に自分を重ねていることを知っています」と語る。「私は人前に出ることも多い。だからといって、自信喪失に悩んでいないわけではありません。むしろ毎日が不安です。本当にリラックスできるのは一人でいるときだけ。でも、自分のプラットフォームを通じて、自分の気持ちを正直に伝えることが私の責任だと思っています。『私は自分を愛してる。だから、あなたも自分を愛して』と伝えたい。でも、現代の女性たちは本当に深い部分まで洗脳されているのです」

社会が生み出したボディシェイムと対処する方法とは。

「自分の身体を邪魔者だと考えていました。見られたくない、そう思っていました」と語るアリエル・ニコルソン。 コルセット ¥154,000 スカート ¥231,000 中に着たブラトップ 中に着たショーツ ともに参考商品/すべてGUCCI(グッチ ジャパン)

ニコルソン、ハマム、エルセッサー──この3人が社会で置かれている立場は大きく違う。背の高い痩身のニコルソンは昔ながらのモデルのように見えるが、トランスジェンダーの女性であり、女性として見られる権利を勝ち取るところから始めなければならなかった。ハマムはモデル界のスーパースターだ。水着撮影の常連であり、生きる喜びを全身で表現しながら、ほとんど何も身につけていないような水着姿でビーチを闊歩する。エルセッサーは、アシュリー・グラハムやプレシャス・リーとともに新世代モデルの旗手となり、ランウェイや雑誌の表紙、広告キャンペーンで存在感を示してきた。しかし3人はいずれも何らかの形でボディシェイムに悩まされ、それを克服する努力を続けている。例えばハマムはムエタイの練習を始め、ニコルソンはコミュニティに支えられている。「女性にボディポジティブの考え方を自力で身につけるよう求めるのはフェアではないと思います」とルブーフは言う。「シェイム(恥)は社会が生み出すものであり、社会的に対処する必要があるからです」。エルセッサーの言葉を借りればこうだ。「自分にいつも言い聞かせています。変わるべきは私ではなくシ��テムだ、と」

では、どうすればシステムを変えられるのか。構造的な人種差別、階級差別、能力主義、女性蔑視、反トランスジェンダー、(深く内面化された)脂肪への偏見を解消することは難しい。この「ハード」な仕事を成し遂げるための「ソフト」な手法として、近年盛んに活用されているのがレプレゼンテーション(映画や広告に多様な特徴を備えた人物を登場させること)だ。しかし、ここではレプレゼンテーションはひとまず脇に置いて、ロジスティックスの問題に目を向けたい。ファッションにおいて、体型の多様性に対応することはサプライチェーンの問題と直結する。サプライチェーンを構成する最初のリンクの一つが、ショールームのサンプルだ。業界の伝統として、デザイナーはランウェイで見せる衣服のサンプルを作成する際にフィッティングモデルを使う。このモデルは通常、非常に小さく、英国サイズで言えば6程度に相当する。幅広いサイズを店頭で展開するために、デザイナーはパターンメーカーと協力して服を作る。パターンを拡大することは可能だが、サイズが大きくなるほど、最初のシルエットを保つことは難しくなる。もう一つの問題は、大きな身体は標準化しにくいということだ。サイズ14の女性は、身長180cmで筋肉質の身体をしているかもしれないし、身長160cmでふくよかな身体をしているかもしれない。一つの解決策は伸縮性のある生地を使うことであり、ここ数年はニットウェアとライクラの混合素材が増えている。しかし、サイズ6のサンプルで仕立てた服を別のサイズで正確に再現しようとしても、パターンを作り直すことは難しく、コストもかかる。これは典型的な英国人女性のサイズが16前後であるにもかかわらず、資本主義のルールに反して、ハイファッションの店やブランドでは幅広いサイズの服が展開されていない理由となっている。

一つの対応策は、サンプル作成のプロセスを進化させることだ。マナスとデルピエールはフリーサイズの服を作るために、さまざまな体格でパターンをテストしている。一方、ガブリエラ・ハーストなどのデザイナーは、多様な体型のモデルを早い段階で起用しておき、具体的なモデルを念頭に置いてルックを作成している。こうした服は、あとで雑誌の編集者やセレブリティのスタイリストに貸し出すことも可能だ。「あらかじめ仕事の流れに組み込んでおけば、それほど大きな問題ではありません」とハーストは言う。「協力してくれるサプライヤーも見つける必要があります。私たちは靴のサイズ展開を欧州サイズの43まで広げました。これは、誰が女性かを判断するのは、私たちではないというメッセージでもあります」

米ファッション協議会(CFDA)のカサンドラ・ディグス会長は、パターンの拡大と縮小に必要な計算をこなし、小売店に幅広いサイズの服を供給する上で、テクノロジーが果たす役割は大きいと言う。「私は発明家ではないので、完璧な解決策をお伝えすることはできません。でも、こうした取り組みを支援するためにCFDAにできることはあります。それは啓蒙活動であり、デザイナーを教育し、必要な資金や人とつなぎ、サイズ展開の拡大が生産プロセスに与える影響を理解できるようにすることです。必要なものはインフラなのです」とディグス会長は言う。「インフラの整備が変化の鍵になります」

国連型の世界共通のサイズ基準を作成。

ディグス会長はさらに、ファッション業界の関係者が一致団結して「国連型のフレームワーク」を構築し、こうした問題に取り組むことも提案している。具体的には、世界共通のサイズ基準を作ること、ブランドにコレクションの一部を余裕のある寸法で作ってもらうこと、店舗に大きなサイズをもっと並べてもらうことなどだ。「目標とする水準を定めることで、説明責任が生まれます」とディグス会長は指摘する。

しかし、こうした計画は複雑なジグソーパズルのようなもので、なかなかはまらないピースが出てくる。「ぽっちゃり程度なら、流行の服が見つからないという悩みで済むかもしれません。でも私くらい大柄になると、普通のトレーナーすら見つからないのです」と言うのは、ダイエットやウェルネス文化を掘り下げる人気ポッドキャスト「メンテナンス・フェーズ」の共同ホストで作家のオーブリー・ゴードンだ。「私の体重は約150キロ。インクルージョンの範囲を超えているかもしれません」とゴードンは続ける。「2年前には、プラスサイズの人が選べる服は『通常』サイズの2・3%しかありませんでした。私のようにサイズ26ともなると、その割合はもっと小さくなります。ここまでくると、日常生活にも支障が生じます。ジム用の服は見つからないし、仕事の面接に着ていく服がどこにも売っていないのです」「これは、ファッション広告に自分に似たモデルがいないというレベルの話ではありません」とゴードンはつけ加える。「もちろん、いるにこしたことはありませんが、これはむしろ公平性の問題です。この問題は社会正義の観点から捉えなければなりません。そうでなければ、ボディポジティブの議論は個人に意識の転換を求めるだけになってしまうでしょう」

私たちは、理想とされてきた女性の美の概念は偽物であることを知った。では、非現実的な基準に自分を押し込めるのをやめ、自分の肉体を、そのすべてを堂々と受け入れるようになったのだろうか。否だ。私は10代の頃から毎朝体重を測っているし、食事のカロリーを記録している。しわを食い止めるために高価な美容液を塗り、セルライトを減らすための新しい治療を検討し、修行僧のような熱心さで運動にいそしんでいる。一方、私がしないこと──絶対にしないことは、ダイエット中だと宣言することだ。その代わりに、私はウェルネスとか、健康とか、自己最適化といった言葉を使う。結局のところ、私は「もっと痩せていればモデルになれたのに」と苦悩する少女のままなのだ。

こうした感情は私から多くの機会を奪ってきた。例えば、ビュッフェのテーブルを目の敵にしていなければ、もっとパーティーを楽しめたかもしれない。フィットネスのクラスに費やした時間で小説が書けたかもしれない。カンが言ったように、自分の身体に耳を傾け、自分の身体を信頼する方法を知っていたら、また恋人の欲求を自分が求めているものだと勘違いせずにいたら、もっと早く関係を終わらせることができていたかもしれない。私が言いたいのは、女性に自分自身を物として捉えるよう仕向けることは、人類の繁栄を妨げる行為だということだ。かたくなに変化を拒む社会の態度は、社会が女性の功績を低く評価し続けていることを示すゆるぎない証拠でもある。「ロダルテを立ち上げたときに一番不満だったのは、『なぜ自分たちの服を着ないのか』と何度も聞かれることでした」とケイト・マレヴィは言う。「この質問がどうしてこれほど気に障るのか、自分でもなかなか分からなかったのですが、あるとき気づいたんです。『誰も、こんな質問を男性のデザイナーにはしていない』って」

「ファッションを芸術的な表現として扱っていいのは男性デザイナーだけだと言っているようなものです」とローラ・マレヴィも言う。「私たちは女性なので、どうしても外見に目が行くのでしょう」 ロダルテがブランドをスタートさせた2005年は、キャットウォークを歩くモデルの細さが最高潮に達した時期でもある。今から思えば、文化全体に拒食症のムードが蔓延していた。サイズ0が崇拝され、ダイエット番組「The BiggestLoser」が人気を博した。ロダルテも初期のショーではこの流れに乗り、当時エージェンシーが契約していた痩せこけたモデルたちをキャスティングした。では、誰がマレヴィ姉妹に影響を与えたのか。その答えが知りたければ、ロダルテが服を貸した俳優たちを見ればいい。その多くは太めの体型の持ち主だった。「インクルージョンはいつも意識していたので、私たちの服に共感してくれる人が必ず着られるようにしたいと思っていました」とケイトは説明する。現在のロダルテのショーでは、この視点からモデル選びが行われている。これは進歩だ。変化は常に未来に向かって、少しずつ起きる。

社会で今、起きている意識の変化。

ドレス ¥114,400/RICK OWENS(イーストランド) 中に着たスウィムスーツ/ERES(www.eresparis.com)

実際、状況は変わりつつある。デザイナーのガブリエラ・ハーストは「こうあるべき」という規範に10代の娘たちが見せたあきれ顔を、社会の態度が決定的に変わったシグナルと捉えた。マイケル・コースの顧客も同じような拒否反応を示すことがあるという。ショーや広告キャンペーンに多様な体型のモデルを起用することで知られるコースは、「女性たちはもはやルールを気にかけていません。自分の好きなもの、良い気分にしてくれるものを着たいと思っているのです」と言う。「ソーシャルメディアでは、パロマやプレシャス・リー、エミリー・ラタコウスキーをはじめ、たくさんの女性たちが自分の身体を受け入れ、堂々と見せています。こうした身体を見せることが、自分をもっと自由に表現する機会を多くの人たちに与えたのではないでしょうか」とコースは言う。

意識の変化は若者の間だけで起きているわけではない。アンバー・ヴァレッタは私と同い年だ。彼女は、この特集に参加してくれた素晴らしい女性たちの一人であり、1990年代に長く活躍したファッション界のスターモデルでもある。当時はさまざまな不安を抱えていたが、ボディイメージに悩んだことはないとヴァレッタは言う。もともと非常に細い身体をしていた彼女は、体重を落とせ、身体を絞れという業界の圧力のほとんどを受け流すことができた。もちろん、少数だが問題のあるクライアントもいた。中には彼女の尻をつかみ、「ここはもう少し落とせるな」と言い放つ輩もいたという。「そういう経験も乗り越えました。私は自分の身体を物か商品のように考えていました。私自身ではないと感じていたのです」

ドレスとして纏ったストール ¥16,500/PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE(イッセイ ミヤケ) 中に着たボディスーツ/HALF BAKED(www.halfbakedlondon.com)

「でも息子が生まれて、すべてが変わりました」と彼女は続ける。「自分の身体に対する見方が根底から変わったのです。私の身体がこの子を生み、育んだのだと。年齢を重ねるうちに、身体に対する意識は何度も変わりました。こういうセットでポーズを決めている若いモデルを見ると、年齢を感じずにはいられません。『私も年ね。この肌ったら!』と文句も言いたくなります。でも同時に、この身体は今回の人生で私に与えられた唯一無二のものであり、ずっと私と一緒にいてくれたことにも気づきました。私が経験したすべてのことが、この身体につまっているのです」。ヴァレッタはそう言うと、手を頭からつま先へ払うように動かした。「この身体は、私の人生そのものなんです」

Hair: Akki Shirakawa Makeup: Fara Homidi Manicure: Riley Miranda Set Design: Spencer Vrooman Production: Connect The Dots Digital artwork: Studio RM Models: Amber Valletta, Ariel Nicholson, Cindy Crawford, Imaan Hammam, Jeneil Williams, Mia Kang and Paloma Elsesser