BEAUTY / EXPERT

メイクアップ・アーティストがレクチャー。初夏にまといたいリップカラー、色と質感の正攻法とは?

気鋭のメイクアップ・アーティストYUKIがリップカラーのトレンドや旬なテクスチャー、メイクとの向き合い方についてを伝授。初夏の日差しに映える、色彩と質感の黄金バランスを学ぼう。

メイクアップの中で最もアイコニックで官能的なパーツが、唇

メイクアップの中で最もアイコニックで官能的なパーツが、リップ。唇の装いひとつ変えるだけで、その人のオーラはいかようにも変化する。NY東京を行き来しながらトレンドをリードするメイクアップ・アーティストのYUKIさんが、ヴォーグジャパンのためにクリエイトしたのは、そんなバリエーションに富んだリップの姿。各年代を席巻したメイクテクニックの数々をインスピレーションとして取り入れながら、絶妙なウェット感のある、多彩な色合いの唇をメインに据えたのだ。

「60年代を象徴するバサバサのつけまつ毛や、チークでシェーディングを入れた70年代らしいドーリィスキン。さらに80年代をわせるパンクっぽさを取り入れたアウトラインリップといったメイクのヒストリーを参照しながら、現代のフィルターに通してコントラストをつけ、エッジィに仕上げました」。すべてのメイクに共通するのは、ピタリと唇にフィットしている色とツヤ。「目指したのはグロスでもリキッドでもない、包みこむようなモイスチャー感とカラーが共存する絶妙な雰囲気です。唇と肌との境目をぼかしてにじませるように塗っても、くっきりとアウトラインをとっても、色が心地よくステイする最高の質感に」

肌の色の延長であるベージュやブラウンを含んだカラーを選ぶ

メイクの中で何より目を引く、唇を囲むブラックのアウトラインと青みレッドとの美しいグラデーション。80年代風の力強いコントラストでアナキズムを打ち立てる一方、目もとに差したマットなペールホワイトとシルバーのシャドウでそのムードを優しく包みこみ、 現代的なガーリィルックを表現。

ファッションの潮流が“リアル”かつ“クワイエット”にシフトしてきている今、上手なバランス感でリップメイクを楽しむには、どのようなことに気をつければよいのだろうか? YUKIさんによれば「パキッとした彩度の高い色ではなく、肌の色の延長であるベージュやブラウンを含んだカラーを選ぶようにすれば、顔色から浮いて見える心配はありません」とのこと。

「海外でもY2Kブームの流れを汲んで、引き続きブラウン系リップが人気。ほどよいくすみ感を宿したこういうカラーは、特にアジア人の肌にベストマッチするのも特徴です。黄み系のベージュやブラウントーンであれば、間違いなく似合うのでおすすめ」。彩度が高いリップを使用する場合は「唇へきっちり均一に塗るよりも、アウトラインをぼかしたりグラデーションを描きながら使ったりすれば、今っぽいバランスのとれた佇まいになります」と、心強いアドバイスも授けてくれた。

テクニックに頼りすぎないほうが、今っぽい

唇のエモーションはひと塗りで変幻自在、同じスキントーンの顔でもガラリと雰囲気をチェンジする。〈右〉 ジャケット 参考商品/MARC JACOBS(マークジェイコブスカスタマーセンター) 〈左〉 ブラトップ 参考商品/MARC JACOBS(マークジェイコブスカスタマーセンター)

リップの色選びの心得をマスターしたなら、次はつけ方のワンポイントについてもチェックしよう。「あまりきれいに塗りすぎると、クラシカルに見えすぎてしまうことがあるんです。あくまで単純なステップでシンプルに、と心がけて。例えば鏡を見ずにアプライしてエッジだけ丁寧に指でぼかすなど、テクニックに頼りすぎないほうが、今っぽいリアル感を演出できます」。この気負いすぎないエフォートレスな姿勢さえ身につければ、目もとやチークなどリップ以外のパーツで無理に引き算しようとせずとも、写真のようにヘアメイク全体がすんなり心地よくまとまるそうだ。

自分への自信やメイクを楽しむマインドを

唇にピタリとフィットして色づくツヤは、それだけで頼もしいアクセサリーに。グラマラスなブラックのアイラッシュには、あえてスキントーンとしっくりなじむヌードベージュをチョイス。ドレス ¥46,200/JENNYFAX(ミキオサカベ&ジェニーファックス)

毎シーズン、各国で移り変わるメイクトレンド。リップに限らず、グローバルに活躍するYUKIさんのプロの目には、今季どんなものが魅力的に映ったのかも聞いてみた。「僕が今っぽいなと感じるのは、強気なかっこいい人物像の中にリアリズムをほどよく入れこんだメイクです。時代に対するアンチテーゼを打ち立てつつ、どこか人間的な不完全さをも賛美する“アグリーシック(醜さの中に見出すシックさ)”の美学を取り入れているような装いの数々ですね。そうした“リアリズム”という観点でいえば、肌のツヤ感のトレンドも実は少しずつ変化してきているのかなと。日本でも“ツヤ肌”はずっと人気で、そういう質感をつくれるファンデーションがすでに多く存在しますよね。でも、これから世界の主流になっていきそうなのはあくまで“素肌っぽさを演出する”ためのツヤであって、従来のデューイーで完璧なみずみずしさとは違う印象のものになってくると考えています」。カラーでは、「一時期なりをひそめていたクールトーンやブルーベースの色彩が、今年の後半や来年には注目されると予想しています。扱いにくい印象があるかもしれませんが、使うバランスしだいで日本でも新鮮に捉えられ、人気が出るのではないでしょうか」

ベージュのアイカラーに、ブラウンを帯びた赤リップを合わせて、唇をメイクの主役に。ドレス¥2,530,000 シューズ 165,000 ともに予定価格/ともにPRADA(プラダ クライアントサービス)

今回の帰国で改めて、「欧米と日本とではトレンドのあり方や人々のメイクとの向き合い方に差があると感じた」というYUKIさん。「同じブラウントーンのメイクが流行っていても、アメリカではやはり、わかりやすいゴージャスな色っぽさやセクシーさが求められます。それに対して日本ではまず、日焼け止めをしっかり塗って肌を白く見せて......という、“身だしなみ”としてのメイクの意識が強く根底に存在しているようです。そういう意味では、メイクがまだ十分な自己表現につながっているといえないのかも。メイクをする人のコアの部分に、自分への自信やメイクを楽しむマインドがもっと定着していけば、表現の幅も大きく広がっていくはずだと期待したいですね」

Profile
YUKI
メイクアップ・アーティスト。NYをベースに活動し、2021年より「RMK」のクリエイティブディレクターを務める。繊細で正確なテクニックとストリートカルチャーをミックスしたモダンな作風に、さりげない色香を漂わせるクリエイションを誇る。

Photography: Petra Collins Makeup: Yuki Hayashi @CLM Agency using RMK Hair: Tiago Goya @ Home Agency Stylist: Mimi Wade Producer: Yukiko Morooka Models: Ellen Vu @ Anti-Agency,Jan Baiboon @ Supreme Management Photography Assistant: Steve Yang Makeup Assistant: Valerie Vitko Hair Assistants: Anna Kato, Ramdasha Bikceem Styling Assistant: Jonathan Small Interview & Text: Misaki Yamashita Editor:Kyoko Muramatsu

※『VOGUE JAPAN』2024年6月号転載記事