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ゼンデイヤの『デューン 砂の惑星PART2』プレスツアールックを手がけた名スタイリスト、ロー・ローチが極める“メソッドドレッシング”

映画『デューン 砂の惑星PART2』(3月15日全国公開)のプレスツアーで話題をさらった、主演ゼンデイヤのレッドカーペットスタイルの数々。スタイリングを手がけたロー・ローチ本人が、SFのムードを巧みに投影する“メソッドドレッシング”にまつわるエピソードを明かしてくれた。

メキシコシティにて。ボッテガ・ヴェネタのカスタムルック。

Photo: Getty Images

3月15日(金)に全国公開を控えた『デューン 砂の惑星PART2』。この2カ月間にわたって繰り広げられたプレスツアーでは、主演のゼンデイヤティモシー・シャラメフローレンス・ピューオースティン・バトラーらがレッドカーペットに登場するたびに、映画の世界観を巧みに映したファッションが注目を集めた。言わずもがなだが、最も話題をさらったのは、ほかでもない主演のゼンデイヤだ。

「“メソッドドレッシング”を駆使しました」と語るのは、彼女の長年のスタイリストであるロー・ローチ。彼が言うメソッドドレッシングとは、俳優たちがオフスクリーンでも映画やドラマのストーリーを落とし込んだ装いをするプロモーションテクニックで、『バービー』(2023)で主演を演じたマーゴット・ロビーによるそれも好例に挙げられる。

「それぞれのルックは、映画のワードローブの延長にあります。はっきりとした意図と目的を持たせていました」と言うローチは、芸術的なカスタムルックとアーカイブピースを組み合わせ、隅々まで計算し尽くされたワードローブを作り上げた。

バイラルルックにまつわる、知られざるエピソード

ニューヨークにて。ステファン ローラン 2024年春夏オートクチュールコレクションより。

もちろん、ゼンデイヤと彼がタッグを組めば、見事なレッドカーペットスタイルが完成することは万人の知るところだろう。長年にわたり、数え切れないほどのアイコニックなファッションモーメントを生んできた二人だが、今回は新しいことに挑戦したかったという。「最初はまだ映画を観ていなかったので、予告編をベースにすべてのルックを作りました」とローチ。しかし、ツアーの最終地となったニューヨークでは、「何をすべきかわかっていた」そうだ。この日、ゼンデイヤが纏ったのはステファン ローラン(STÉPHANE ROLLAND)による2024年春夏オートクチュールコレクションのガウン。彼曰く「(シャーロット・ランプリングが演じた)教母ガイウス・ヘレネ・モヒアムが着るようなイメージ」のこの一着は、シャープなカットアウトと、裾にあしらわれた立体的なゴールドの装飾が印象的だ。

ロンドンにて。ミュグレー 1995-96年秋冬オートクチュールコレクションより。

Photo: Getty Images

SFのムードを洗練されたファッションで、そしてオフスクリーンで表現することをマスターしたローチとゼンデイヤ。2月初め、ロンドンのプレミアでのミュグレーMUGLERによる1995-96年秋冬オートクチュールコレクションのボディスーツは、瞬く間にインターネットを席巻。「それに触れることはもちろん、着用するための承認を得られたことも夢のようだった」とローチは振り返る。「ケイシー・カドワラダーとアーカイブチームは、このコラボレーションの実現にとても協力的でした」。当然ながら、こういったファッション史に残る貴重なアイテムを扱う際は慎重にならなければならないが、こんなエピソードを明かしてくれた。「30年前のものなので、そのクラフツマンシップには敬意を持っていました。そこで(ティエリー・)ミュグレーとコラボレーションしたジャン・ジャック(・ウルクン)ご本人が、私たちのフィッティングに参加してくれたのです。彼はプレミア当日の夜も、着付けを手伝ってくれたんですよ」

ソウルにて。ジバンシィ 1999-2000年秋冬コレクションより。

Photo: Getty Images

ソウルでは、故アレキサンダー・マックイーンデザインしたジバンシィGIVENCHYの1999-2000年秋冬コレクションからのドレスをチョイス。またしてもアイコニックなヴィンテージアイテムを掘り起こしたローチは、この一着に至るまでの経緯をこう回想する。「私は目にしたことのあるものすべてを記憶しているので、どのルックにしようかと考えているときに、『確か、ジバンシィで見た一着』と思い立って。そこでAralda Vintageのオーナーに電話してみたら、彼女が持っていたんです。ロンドンに送ってもらい、そこでフィッティングした後、韓国まで持って行きました」。また、液体の入ったアップリケは光を反射するため、この一着はカメラのフラッシュが浴びせられるレッドカーペットにぴったりのデザインだったそうだ。

ローチがヴィンテージを選ぶ理由

貴重なアーカイブピースに歓喜するファンは多いが、ローチは「周囲の反応がどうなるとか、そんなことを考えて仕事をすることはない」と一蹴する。彼がヴィンテージを選ぶ理由は、彼の個人的な体験にも由来するという。「ゼンデイヤと私が仕事をともにして13年、ヴィンテージアイテムをよくスタイリングしてきました。最初は、誰も彼女に服を貸してくれなかったからです。それに私はシカゴでヴィンテージショップをやっていたことがあるので、彼女が着ていたものの多くは私の店にあったものやヴィンテージアイテムでした」

サステナビリティの観点からも、カスタムルックばかりではなく、アーカイブを活用することに利点を見出しているそうだ。「サステイナビリティについて話すのであれば、誰かが持っているものを着るのが一番簡単な方法です。美しい服はできるだけ長生きすべきだし、できるだけ多くの人に着られるべき。どこかに眠っているだけではもったいない」。さらに、オリジナルを尊重するためにも、なるべく手を加えないようにしているという。「リー・マックイーンがデザインした服に傷をつけるなんてことはありえません! でも、買い付けているからこそ、ほんの少しだけお直しすることができます。そう、私たちはディーラーから借りるのではなく、買っているんです。小さなビジネスをサポートすることにも、価値があると思っています」

気鋭デザイナーにも光を当てて

パリにて。アライア 2024-25年秋冬コレクションより。

Photo: Getty Images

パリにて。ルイ・ヴィトンによるカスタムルック。

Photo: Getty Images

パリで熱視線が注がれたのは、まるで蛇のように体を包み込むアライアALAÏA2024-25年秋冬コレクションのホワイトドレス。ローチの個人的なお気に入りはというと、同じくパリで披露したルイ・ヴィトンLOUIS VUITTONのクロップトップとスカートセットアップだという。「ニコラ・ジェスキエールが手がけた初期のコレクション、2020年頃のものを参考にしました。肌を見せているので若々しいのですが、同時にとても映画らしさが出ていると思います」

アーカイブピースが目立つのは確かだが、ローチは気鋭デザイナーの発掘にも積極的だ。メキシコシティでは、ナイジェリアとブラジルにルーツを持つイギリス人デザイナーのトリシジュ・ドゥミが手がけるトリシジュ(TORISHÉJU)をサポートし、ホルターネックのクロップトップとマキシスカートをスタイリング。一方、ソウルでは韓国人デザイナーのジュン ジー (JUUN.J)の2024年春夏コレクションより、レザーのボイラースーツをシャラメとマッチさせた。

メキシコシティにて。トリシジュによるカスタムルック。

Photo: Getty Images

ソウルにて。ジュン ジー 2024年春夏コレクションより。

Photo: Getty Images

何よりもストーリーテリングに重きを置いているローチにとって、本作の壮大さは描き甲斐があったはずだ。『デューン 砂の惑星PART2』のプレスツアーは終わったが、これら一連のルックはファッション史に刻まれるものとなるだろう。彼にこれからの予定を聞くと、「少し休みを取るつもり」と答える。しかし、ゼンデイヤの次なる主演作『チャレンジャーズ』のプレスツアーは1カ月後に迫っている。「ルックを探し始めないといけませんね」とローチ。どんなスタイリングを見せてくれるのか、今から楽しみでならない。

Text: Christian Allaire Adaptation: Motoko Fujita
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