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「この作品が辿った道のりは夢のよう」──『パスト ライブス/再会』監督セリーヌ・ソン【FAB FIVE】

初監督作の『パスト ライブス/再会』が世界的ヒットとなり、新鋭フィルムメーカーとして眼目を集めたセリーヌ・ソン。ソン監督の心を捉えた恋愛映画や監督、移民を描いた物語とは?

Photo: © Emma McIntyre/Getty Images

初監督作の『パスト ライブス/再会』が、アカデミー賞作品賞ノミネートなど数々の栄誉に輝き、一躍アメリカ映画界の期待の星となったセリーヌ・ソン。韓国に生まれた彼女は12歳で家族とカナダへ移住ニューヨークで劇作家として活動後、活躍の場を映画に移した。本作は、ソウルで結婚まで約束した少女ノラと少年ヘソンが離ればなれになり、24年後にニューヨークで再会する物語。自身の体験を基にソンが脚本を書き上げた。24年後、別の男性と結婚しているノラと、ヘソンは互いにどんな想いを抱くのか……。観た人の多くが切なく胸をかきむしられ、本作の高い評価につながっている。「私は新人監督ですが、この作品が辿った道のりは夢のようです。これは私の主観的作品かもしれませんが、人として正直な気持ちを伝えたことで、映画を観た人も自分との共通項を発見したのでしょう。また本作は〝時間〞と“空間”が、日常を特別なものに変えることを描いています。自分の中には12歳の部分も残っており、タイムトラベルのように過去に戻ることもできる。その感覚に、前世(パスト ライブス)やイニョン(縁)といった東洋の概念をまぶしてみました」

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本作のキャストやスタッフには、旧知の仲のような親近感を感じたというソン。映画制作に自信をもった彼女は、演劇の道から離れると決心。準備中の次回作が、世界から注目されるのは間違いない。「今、私は映画とハネムーンを続けている気分。それくらい夢中です。1本の映画の完成までには3年くらいかかるので、関係を保ち続けられるほどの題材への愛着が必要です」

1. ライフタイムフェイバリットの映画と監督を教えてください。

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人生のベスト映画は、アルフォンソ・キュアロン監督の『トゥモロー・ワールド』です。未来が舞台ながら、現在の私たちが直面する問題と重なり、しかも政治的テーマが作品にうまく溶け込んでいます。このタイプの映画が大好きです。監督では黒澤明。『天国と地獄』では、俳優をどこに立たせ、どう動かすのかという、演出における「ブロッキング」について多くのことを学びました。

2. 『パスト ライブス/再会』は、移民も一つのトピックになっています。あなたの心に残る、移民やその次世代を描いた作品はありますか?

Photo: © 2024 Everett Collection David Bornfriend / © A24 / Courtesy Everett Collection

忘れている作品も多いですが、『ミナリ』でしょうか。物語自体は、私が監督した『パスト ライブス』とはかなり違いますが、生きる場所を移すと、その人のアイデンティティの一部を置き去りにすることになります。『ミナリ』を観て、そこに残した“何か”を気にかけることが、作りたい映画へつながると実感しました。

3. 近年、韓国のカルチャーがグローバルな人気を獲得しています。あなたが夢中��なっている韓国のエンターテインメントは何ですか?

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確かにニューヨークやロサンゼルスにいるとKポップの人気は実感できます。でも私自身はKポップや韓国のドラマにそれほど親しんでなくて……。私がその質問に答えるとなると、韓国の映画監督の名前が浮かんでしまいます。ポン・ジュノ(写真)、パク・チャヌク、イ・チャンドンは心から尊敬していますから。

4. ソウル生まれのあなたが今日韓国へ行けるとしたら、どこを訪れ、何をしたいですか?

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富川と釜山。そして済州島(写真)へは、常に行きたいです。これらの場所では最高の食べ物とカルチャーを楽しめますから。東京の人が「お薦めの場所は?」と聞かれ、「東京タワー」などと答えないように、私も例えばソウルに関しては「道に迷って、意外な場所を発見してほしい」と伝えたいです。今回のソウルの撮影でも有名な場所は選ばず、登場人物たちが飲みに行きそうな店を探してもらったりしました。

5. 繊細なラブストーリーを監督作で描きましたが、あなた自身が純粋に好きな恋愛映画は?

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『カサブランカ』(写真)と『ローマの休日』ですね。これらの作品は、恋愛映画として素直に満足のいく結末ではないかもしれませんが、主人公たちの愛は確実に存在し、永遠に美しく残されます。こうしたハリウッドのクラシック映画と、私の『パスト ライブス』には深い部分で共通の感覚があるような気がするのです。最終的に結ば���るか否かによって、その愛が本物とどうかが決まるわけではありませんから。

Text: Hiroaki Saito Editor: Yaka Matsumoto