近年は、理不尽なクレームが店舗スタッフなどを悩ませています。そこでご紹介したいのが、『カスハラ、悪意クレームなど ハードクレームから従業員・組織を守る本』(津田卓也 著、あさ出版)。

ご存知のようにカスタマーハラスメントは、ハードクレームに暴力的・強迫的な言動をはじめとする迷惑行為を伴うもの。しかし、それらは一般的なクレームとはまったく別の対処法が必要になるのだといいます。

これまで多くの組織が「クレームはお客様からの愛だと受けとめ、真摯に対応する」という方針でクレームに対応してきましたが、もはやそれでは通用しないハードクレームが増えてきました。

このようなクレームに時間と労力を掛けていると、現場のスタッフを疲弊させてしまうばかりか、組織にとって本当に時間を掛けて対応すべき、他のお客様への対応も疎かになってしまいます。

そのため、現場ではハードクレームの場合「お客様の要求を“断る”こと」が必要となります。クレーム対応の新時代が始まったのです。(「はじめに」より)

そこで本書においては、要求の内容や手段に合理性がないクレームのことを「ハードクレーム」と呼び、その対処法を明らかにしているのです。

著者はOJT(部下指導)研修・クレーム対応研修において国内随一の登壇実績を持つ人物ですが、コンサルを行った組織においては年間3000件あったクレームを、2年間でわずか数件にまで減少させることに成功したのだとか。

つまり本書は、そうした経験と実績に基づいて書かれているわけです。きょうは第3章「現場で使える! シーン別ハードクレーム対応法」のなかから、2つをピックアップしてみたいと思います。

怒鳴られ、暴言を吐かれた

クレーム対応の途中で、お客様が急に怒り出してしまいました。

周りにいる他のお客様もびっくりするような大声を出され、こちらが必死でなだめようとしても、

「お前じゃ話にならない」

「馬鹿野郎!」

「常識がないやつだ!」

などと暴言を繰り返し、収まる気配がありません。

NG対応:萎縮して、怒鳴り声をただ浴び続ける状態になる。

(108ページより)

冒頭でも触れたように、自分の要求を通そうとして、従業員に暴言を吐いたり怒鳴ったりするお客様が増加しています。大声で怒鳴っているからといってすぐに「ハードクレームだ」と判断してしまうのは危険であるものの、その内容が度を越している場合は相応の対応が必要。

その際にはチームでの対応を原則とし、スタッフひとりだけで対応しない・させないことが大切。対応したスタッフがひとりで暴言を浴び続けるような状態は避けなくてはならないわけです。なお、お客様が怒って手がつけられない場合は��クレーム対応の基本である「3つの代える」を実践することが大切だそう。

・人を代える

・場所を代える

・時を代える

(109ページより)

この3つを実践して、相手のクールダウンを試みるわけです。また、「お前は馬鹿なのか!」「いうとおりにしないと殺すぞ!」など身の危険を感じるような暴言を吐いてくる人には、対応者が怖がっていることを伝えるのも効果的だといいます。

また、「いま私に『殺すぞ』とおっしゃったのですか? 怖くて震えてしまっています」などと大きな声で伝えれば、周囲のスタッフに状況を伝えることが可能。相手をひるませる効果もあるようです。(108ページより)

上司を出せ! と詰め寄られた

マニュアルに沿って、丁寧に商品説明をして対応したのですが、

「お前じゃ話にならないから上司を出せ」

「責任者を出せ」

と言われてしまいました。「ご不快な思いをされた点についてお聞かせください」とお願いしても「上司(責任者)がくるまで話さない」と取りつく島もありません。

NG対応:「すぐ交代します」と、上司や責任者を呼びに行く。

(124ページより)

「上司を出せ」といわれたからといって、すんなり上司に対応を交代するのは避けるべきだと著者は述べています(ただし、対応しているのが新入社員や、部署移動してきたばかりで業務のことがよくわからないフタッフの場合は、ベテランスタッフに迅速に交代してもらうことが必要)。

「上司を出せ」と繰り返す人の多くは、決裁権を持つ責任者には、現場スタッフにはできない特別な対応(金品での解決など)をしてもらえると知っているもの。そのため、より悪質な要求をしようと考えるわけです。

とはいえ上司は、「現場での判断では対応しきれない特殊な事情」があるときにだけ対応し、基本的には現場スタッフで対処するべき。クレームが派生するたびに呼び出していたら、上司は管理職としての本来の仕事ができなくなり、現場スタッフのスキルアップにもならないからです。

「上司を出せ」と言われたら、

「私が責任をもってお話をお伺いします」

「上司が参りましても私と同じご説明になるかと思いますが……」

と伝え、交代しない姿勢を示します。

お客様がダメだと言っても、「私がお客様のご意見を伺い、責任をもって上司に報告いたします」と伝え、現場スタッフが対応を続けます。(126ページより)

このとき、最低3回は繰り返して説明するようにすることが大切だといいます。それでも「いいから、上司を出せ」といい続けるようなら、責任者を出さなければならない理由を聞き出し、上司に伝え、指示を仰ぐのです。もちろんクレームのケースもさまざまでしょうが、基本的には現場のスタッフ同士で助け合いながら完結させることを徹底するのがよいようです。(124ページより)


数々の実績を残してきた著者は、現場と組織が協同で対策に取り組んだところは必ず数年後に効果を出すと断言しています。スタッフを大切にし、顧客満足のみならず従業員満足をも向上させる組織を目指すために、ぜひと本書をも参考にしたいところです。

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Source: あさ出版