多くの人は、「うまくいった1日とは、やるべきことをたくさん成し遂げた1日だ」と考えています。
そして、ToDoリストに並んだタスクに、もっとたくさんの「済み」マークをつけるため、マルチタスクを試してみたくなるわけです。
とはいえ、そのやり方はむしろ逆効果です。
ある研究から、マルチタスクは実に80%もの生産性低下を招くことがわかっています。さらに、IQを10ポイントも低下させるおそれもあり、マリファナを吸うのと同様の悪影響を認知能力にもたらすそうです。
一度に2つ以上のことをするのは、実際にはマルチタスクではなく「タスクスイッチング」だと語るのは、神経科学者で精神科医のDave Rabin氏です。
医学士と神経科学博士の肩書きを持つRabin氏は、意識の集中や緩和を改善させる科学的効果が実証されたウェアラブル技術を提供するApollo Neuroscienceの共同創業者で、最高医療責任者でもあります。
「注意力は、限りのあるリソースです」とRabin氏は話します。
私たちが、ある一定の時間に注げる注意力は限られています。
別々のタスクを同時にこなそうとして注意力を分割すると、注意力のリソースを流用することになり、今という瞬間から、さらに引き離されることになるのです。
注意力を分割すると、ミスが増えるリスクが高くなります。そしてミスが増えれば、進行中のタスクをやり直さざるを得ない確率も、それだけ高くなります。
しかしRabin氏に言わせれば、「(タスクスイッチングではない)マルチタスク」は決して不可能ではありません。ただし、うまくやるコツを知っておく必要があります。
シェフをイメージする
マルチタスクは、タイミングがすべてです。Rabin氏によると、マルチタスクを正しく行なうには、イタリア料理のディナーを準備しているところを思い浮かべるといいそうです。
「まずは、いちばん時間がかかるソースをつくりはじめます」とRabin氏。
ソースが煮立ってきたら、次はパスタです。
パスタにも、出来上がるまでに必要な時間があります。
それは、パスタだけに限らず、ほかも具材もすべてそうです。
それぞれの作業に100%の集中力を注ぎます。
そして最後に、温度や食感、風味がちょうどいいタイミングで、すべてが出来上がるのです。
こうしたシェフのやり方は、仕事にも使えます。タスク間で注意力を分割しようとするのではありません。まずは、それぞれのタスクにどのぐらい時間がかかりそうかを考えます。次に、タスク同士が重ならないように、ずらしながら順番を決めます。そして、それぞれに100%の注意力を注いでいくのです。
たとえば、大きなプロジェクトに取り組んでいる場合は、現在から明日まで、そして現在から来週までの間に何をやれば、最終的に成功するのかを判断します。そして、進めていくにあたって、何から手をつけるべきなのかを自問します。
「タスクによっては、手はずが整うまで時間を要するものもあれば、検討やフィードバックを要するものもあります」とRabin氏は説明しています。
タスクごとに所要時間が違うわけです。
パスタが、ソースほど調理に時間がかからないのと同じです。
それぞれのタスクを、時間が重ならないようにずらして並べれば、実際には複数のタスクを同時進行できるようになります。
その瞬間にではなく、時間を越えてマルチタスクを行なうのです。