CDN(コンテンツ デリバリ ネットワーク)とは何か

コンテンツ デリバリ ネットワーク(CDN)とは、コンテンツをキャッシュして近くにいるユーザーに提供できるようにする、コネクテッド サーバの集合体です。

CDNは、世界中のユーザーにコンテンツを迅速に提供するコネクテッド サーバのアーキテクチャです。そのインフラストラクチャはユーザーに最も近いサーバを使用するため、高速で応答でき、コスト効率に優れ、遅延が最小限に抑えられます。そのため、HTMLページ、静的/動的コンテンツなどのインターネット コンテンツの読み込みに必要な資産を迅速に転送することができます。データが移動する距離が短くなることで、ユーザー側のパフォーマンスが向上します。

WebパフォーマンスにおけるCDNの重要性

コンテンツ デリバリ ネットワーク(CDN)は、デリバリ ネットワーキングまたはアプリケーション デリバリ ネットワーキングとも呼ばれ、スタッフやユーザーが地理的に離れた場所にいる組織にとってはビジネス上、不可欠なものです。ユーザーの要望に応えてデータを提供するには、1秒1秒(そして数分の1秒)が重要であり、ユーザーの近くにあるサーバを利用すれば、ほぼリアルタイムのデータ デリバリが可能になります。

CDNは、インターネット エコシステムのレイヤとして機能します。メディア企業、ソーシャル プラットフォーム、eコマース サイトなどのコンテンツ所有者は、CDN事業者に料金を支払い、コンテンツをキャッシュしてエンド ユーザーに提供します。一方、CDN事業者は、インターネット サービス プロバイダ(ISP)、通信事業者、ネットワーク事業者に料金を支払い、それぞれのグローバル データ センタでサーバをホストします。

従来のWebホスティングでは、Webサイトのデータを単一のハードウェア サーバに格納します。このようなホスティングは信頼性が高く安全ではありますが、範囲と機能が制限されるため、通常はインターネット トラフィックに単独で使用されることはありません。CDNは、強力で信頼性の高いWebホスティング ソリューションを必要とする組織のニーズに応えるものではありませんが、ネットワーク エッジでコンテンツをキャッシュすることでホスティング サービスを補っています。

このキャッシュにより、重要なデータがバックアップされて世界中にデータ バンクが構築されるため、Webサイトのパフォーマンスとデータへのユーザーのアクセス性が向上し、従来のWebホスティングが抱えている難題の一部を解決することができます。

CDNの主な概念

CDNは、オンプレミスのデータ センタとしても、クラウドベースでも使用できます。Webサイトで無料または共有のホスティングを使用している場合、CDNを使用すると、こうしたプラットフォームでは通常制限されているリソースの使用量を減らすことができます。また、サイトでトラフィック スパイクが発生した場合、CDNを使用していれば、トラフィック スパイクがリソース制限を超えることはありません。ここでは、CDNをよく理解して最大限に活用するために役立つ重要な機能と用語について説明します。

オリジン サーバ:コネクテッド デリバリ ネットワークにおけるオリジン サーバとは、クライアントが要求するリソースの元のコピーを保存しているサーバです。Distributed Cloud Private Linkを利用すると、プライベート リンクを介してオリジン サーバを構成することができます。

キャッシュ:コンテンツ デリバリ ネットワークは、オリジン サーバよりもエンド ユーザーに物理的に近い場所にあるプロキシ サーバに、画像、動画、Webページなどのコンテンツをキャッシュします。(プロキシ サーバは、他のサーバからリクエストを受信し、他のサーバにリクエストを渡します。)要求したユーザーの近くにサーバがあるため、CDNはより迅速にコンテンツを提供できます。キャッシュでは、遠く離れたサーバがクエリに応答し、将来の使用に備えて情報を保存または「キャッシュ」します。キャッシュすることで遅延が低減されます。キャッシュされたコンテンツは、ユーザーが継続的に要求する限り、CDNのキャッシュに保持されます。

エッジ コンピューティングエッジ サーバエッジ クライアントとともに使用)は、ネットワークへの入口を提供するエッジ デバイスの一種です。CDNはキャッシュされたデータの転送に重点を置いていますが、エッジ コンピューティングは、ライブ ストリーミング、ゲーム、AIなど、他の多種多様なコンピューティングにも対応します。

接続拠点(PoP):接続拠点(PoP)は、パフォーマンスを最大限に発揮できるように、テラビット級の専用冗長プライベート ネットワークを使用して相互接続されます。これらのPoPは、高密度にピアリングされ、複数の第1層トランジット プロバイダに接続されていて、アプリケーションや消費者に信頼できる高品質のインターネット アクセスを提供します。

CDNを利用するメリット

Webトラフィックのアップタイムと可用性に依存している組織は、CDNを利用するメリットがあります。CDNは、プライマリ ネットワークと連携してトラフィックの負荷を分散するだけではなく、ユーザーに最も近い物理ポイントに意図的に負荷を割り振ります。

  • Webサイトの読み込み時間を短縮:CDNは、Webサイト閲覧者の近くにコンテンツを割り振るため、ページの読み込み時間と遅延が短縮され、ユーザー エクスペリエンスが向上します。
  • 帯域幅コストを削減:CDNは、データ転送とキャッシュを最適化し、オリジン サーバから転送するデータ量を削減します。これにより、Webサイト所有者は、ホスティング コストを削減できます。
  • ユーザー エクスペリエンスを強化:遅延が短縮され、読み込み時間が最適化されることで、ユーザーや顧客がどこにいても、より優れたエクスペリエンスを提供できます。
  • コンテンツの可用性と冗長性を向上:CDNは、個々のオリジン サーバよりも大量のトラフィックを処理し、ハードウェア障害に耐えることができます。この拡張性と優れた負荷分散機能で、Webサイトの可用性が向上し、ダウンタイムのリスクが軽減されます。
  • Webサイトのセキュリティを強化:CDNの中には、分散型サービス拒否(DDoS)攻撃の軽減やセキュリティ証明書の改善など、セキュリティ機能を提供するものもあります。これらの機能は、一般的な攻撃からWebサイトを保護するのに役立ちます。

CDNの実装

CDNを構成するには、オリジン サーバと、信頼できるクラウド コンピューティング組織の分散型クラウド サービス アカウントが必要です。構成を実装する手順の概要を以下に示します。

手順1:クラウド サービス アカウントのコンソールにログインし、新しいCDNディストリビューションを作成します。

手順2:メタデータ、ドメイン、ディストリビューション タイプなどのCDN設定を構成します。

手順3:CDNオリジン プールを構成して、オリジン サービスをまとめます。

手順4:必要に応じて、コンテンツ デリバリ操作を制御する詳細なオプションを構成します。

手順5:ディストリビューションの作成を完了します。

手順6:ディストリビューション ステータスを確認します。CDNディストリビューションが展開されて、地域エッジでコンテンツをキャッシュして提供できるようになるまで数分かかる場合があります。

手順7:ネットワーク データを保護するためにSecure Sockets Layer(SSL)またはTransport Layer Security(TLS)を構成します。

手順8:ディストリビューションのパフォーマンスを監視し、必要に応じて調整します。

適切なCDNプロバイダの選択

CDNをまだ実装しておらず、実装を検討しているのであれば、あらゆる段階で必要な帯域幅とサポートを提供してくれる企業の協力が重要です。十分な情報に基づいて判断するために、検討すべき要素がいくつかあります。

  1. 要件を特定する:CDNを使用するにあたって、具体的なニーズと目標を確認します。地理的範囲、パフォーマンス、機能、価格、カスタマ サポート、拡張性などの要素を検討します。
  2. 利用できるオプションを調査する:さまざまなCDNプロバイダを調べて、そのサービス内容と業界における評価を比較します。
  3. パフォーマンスを評価する:速度、ネットワーク接続、信頼性、アップタイム、遅延、容量に関して、各プロバイダがお客様のニーズにどのように対応しているのかを確認します。次に、DNS応答時間、接続時間、待機時間、スループット、経路探索などの指標のパフォーマンスを評価します。
  4. セキュリティを検討する:CDNプロバイダが、お客様のコンテンツやデータを保護するために、堅牢なセキュリティ対策を講じていることを確認します。DDoS対策やセキュア コンテンツ デリバリなどの機能を確認します。
  5. 価格を確認する:帯域幅の使用量、データ転送コスト、手数料などの要素を含め、さまざまなCDNプロバイダの価格モデルを比較します。
  6. カスタマ レビューを確認する:他の顧客のレビューや体験談を読んで、検討中のCDNプロバイダでの顧客体験について情報を集めます。
  7. エキスパートに助言を求める:業界のエキスパートに相談するか、CDNプロバイダの利用経験がある専門家に助言を求めます。

デュー デリジェンスを実施すると、要件と予算に最も適した CDNプロバイダを選択できます。

CDNと検索エンジン最適化(SEO)

前述したCDNのメリットの多くは、WebサイトやWebページの検索結果にも良い影響を与えることがあります。検索結果ページ(SERP)へのどのような影響も保証されてはいないことを忘れないでください。ただし、いくつかの方法でWebエクスペリエンスを最適化すると、SEOを改善できる可能性があります。

  • ページ読み込み時間の改善:CDNは、地理的に異なる地域にある複数のサーバにWebサイトのコンテンツを分散します。これにより、ユーザーとWebホスト間の物理的な距離が縮まり、読み込み時間と遅延が短縮されます。そしてこれがユーザー エクスペリエンスに良い影響を与え、検索エンジンのランキングの向上に貢献する可能性があります。
  • Webサイトの可用性の向上:CDNは、Webサイトのトラフィックを複数のサーバに分散し、サーバで過負荷やダウンタイムが発生するリスクを軽減します。ユーザーがWebサイトに確実にアクセスできる状態であることは、検索エンジンでの可視性やランキングを維持するのに役立ちます。
  • グローバルな展開:CDNには、世界のさまざまな地域にあるサーバのネットワークがあります。世界各地にあること自体が、ユーザー エクスペリエンスと検索エンジンでのランキングに良い影響を与える可能性があり、特に世界中のユーザーが閲覧するサイトには効果を期待できます。
  • モバイル エクスペリエンスの向上:CDNは、モバイル デバイス向けのコンテンツ デリバリを最適化し、スマートフォンやタブレットでWebサイトが迅速かつ効率的に読み込まれるようにします。SEOのためのモバイル最適化の重要性が高まっており、CDNを使用することで、検索エンジンにおけるWebサイトのランキングの向上に役立ちます。

CDNの監視、分析、最適化

コンテンツ デリバリ ネットワークを最大限に活用するには、最も重要なKPIに照らして運用状況を監視する必要があります。そして、パフォーマンスとデリバリ状況を分析し、パフォーマンスが最大限に高まるように継続的に最適化します。

  • CDNプロバイダを評価する:CDNを導入する前に、現在のWebサイト サーバ自体のパフォーマンスを評価します。その後、CDNによってデータが実際により高速で提供されることを確認します。
  • オリジン サーバへのトリップ数を監視する:オリジン サーバに対して行われたリクエストの数を追跡します。予想よりもトリップ数が多い場合は、CDNがデータを効果的にキャッシュしておらず、キャッシュが使用されていない可能性があります。
  • 対象地域で利用可能なCDNを選択する:お客様のユーザーがいる地域にサーバを配置しているCDNサービスを選択します。
  • さまざまな地域からテストする:どこでも安定したパフォーマンスを発揮できることを確認するために、地理的に異なる場所からテストを実施します。
  • HTTP/2負荷テストを行う:潜在的なボトルネックと改善点を見つけるために、重負荷条件下でCDNのパフォーマンスを評価します。
  • CDNを長期的に監視して最適化する:CDNとオリジン サーバからのファイルのリクエストを監視して、CDNを継続的にテストします。CDNの設定を定期的に更新し、すべてが正常に動作していることを確認します。次に、最適化を継続的に実施できる方法を3つご紹介します。
  1. キャッシュ コントロール ヘッダー:キャッシュ コントロール ヘッダーを使用して、CDNがコンテンツをキャッシュする期間を指定します。キャッシュ コントロール ヘッダーを適切に設定すると、CDNがオリジン サーバからコンテンツを取得する頻度を制御して、オリジン サーバの負荷を軽減することができます。
  2. コンテンツのパージと無効化:コンテンツのパージと無効化を行うことで、CDNキャッシュから特定のファイルやコンテンツを削除したり更新したりすることができます。これにより、ユーザーが最新の最も関連性の高い情報を常に入手できるようになります。
  3. 圧縮と軽量化:圧縮と軽量化の技術により、オリジン サーバとCDNサーバ間で転送されるファイルのサイズが小さくなります。ファイルを圧縮すると、転送するデータの量が減り、読み込み時間が短くなります。さらに、軽量化することで、一部のファイルから空白やコメントなどの不要な文字が削除され、パフォーマンスが向上します。

CDNの一般的な課題

コンテンツ デリバリ ネットワークは、組織のデジタル資産の幅とリーチを拡大するのに役立ちますが、いくつかの課題を伴う可能性もあります。IT部門は、これらの潜在的な問題を認識して防止するか、定期的に運用状況をチェックして更新や機能強化を行う必要があります。

  1. 展開:CDNがコンテンツを取得するオリジンを決定し、複数のストレージ システムにコンテンツを展開することが難しい場合があります。また、初期段階のCDNの構成ミスなどもあり、見つけ次第、修正する必要があります。
  2. コンテンツの地域差:どの地域のユーザーにも、シームレスで信頼性が高く、一貫性のあるコンテンツを提供したい場合、CDNはまさにそれを目的としたものですが、地域によってコンテンツに違いが生じる場合もあります。その場合は、システムでさまざまな地域のCDNコンテンツを監査できるようにし、それに応じてパフォーマンスを調整します。
  3. バージョン管理とキャッシュ制御:静的コンテンツの更新管理や新バージョンの展開は、複雑になる場合があります。
  4. テスト:テストを実施して、CDNが期待どおりに動作し、要件を満たしていることを確認する必要があります。
  5. コンテンツとクライアントのセキュリティ:CDNを使用する場合、コンテンツを不正アクセスや改ざんから保護することが課題となります。攻撃者をお客様のデータやユーザーの個人情報に近づけないために、信頼できるセキュリティ ソリューションを導入します。
  6. レジリエンス:ネットワークやインフラストラクチャに障害が発生しても、高い可用性とレジリエンスを維持することが重要です。結局のところ、組織がCDNを導入するのは、可用性と信頼性を高めるためであり、システムをテストして、組織にとって実際に適切に稼働していることを確認する必要があります。

CDN技術の今後の動向

近年、組織のデジタル化に伴い、CDNの拡張を可能にする新たな動向が見られます。ここでは、CDN導入の将来性を高める可能性のあるものをいくつかご紹介します。

エッジ コンピューティングとCDN統合:エッジ コンピューティングとCDNが統合されると、双方のアプローチの利点を活かすことができるようになります。エッジ コンピューティングによって、可能な限りソースに近い場所に処理が移動されることで、リアルタイムの意思決定が可能になり、遅延が短縮されます。CDNはその機能を補うため、ユーザーに近いサーバからコンテンツを提供することで、コンテンツ デリバリの速度と効率を高めます。

エッジ コンピューティングとCDN統合を組み合わせることで、ユーザー エクスペリエンスを強化し、アプリケーションのパフォーマンスを向上させ、データやコンテンツのデリバリを最適化することができます。これは、リアルタイムの意思決定と遅延の短さが不可欠となる、モノのインターネット(IoT)に関わるシナリオで特に重要です。

HTTP/3プロトコルとQUICプロトコルを使用したCDNの導入:HTTP/3は、人気と利用が急速に増大している新しいインターネット プロトコルです。このプロトコルは、QUIC多重化トランスポート プロトコルを使用して、CDNSの遅延と読み込み時間を短縮します。HTTP/3は実際の使用環境において遅延が短く、読み込み時間を大幅に短縮します。

CDNにおけるAIと機械学習:テクノロジー全般で人工知能(AI)と機械学習(ML)の可用性と利用が増大し、コンテンツ デリバリ ネットワークの利用者に大きなチャンスをもたらしています。当社が注目している4つのメリットをご紹介します。

  1. トラフィックの最適化:AIとMLのアルゴリズムがネットワーク トラフィックのパターンを分析し、ユーザーの行動を予測することでコンテンツ デリバリを最適化します。
  2. インテリジェントなキャッシュ:AIモデルとMLモデルは、ユーザーのアクセス パターンを分析して、CDNがコンテンツをインテリジェントにキャッシュするのに役立ちます。
  3. 異常検出:AIとMLのアルゴリズムは、ネットワーク トラフィックとCDNパフォーマンスの異常を特定し、ほぼリアルタイムで問題を検出して軽減することができます。また、AIとMLのアルゴリズムは、CDNが分散型サービス拒否(DDoS)攻撃などのセキュリティ上の脅威を検出して軽減するのにも役立ちます。
  4. 生成AIを使用した動的コンテンツの作成:AIモデルとMLモデルは、ユーザーの好みや行動に基づいてコンテンツをカスタマイズし、実際に作成して、動的コンテンツのデリバリを最適化することができます。これはコンテンツ プロバイダにとって計り知れないチャンスとなりますが、創造的なAIとMLに投資する初期費用は、おそらく高額になるでしょう。

F5がお手伝いできること

F5には、コンテンツ デリバリ ネットワーク(CDN)の実装と保護において豊富な経験があります。データを分散させ、世界中のどこにいても、データを必要とする人がアクセスできるようにすることが、お客様の組織にとって重要な検討事項であることを当社は理解しています。F5の製品とソリューションがCDNの実装と保護にどのように役立つかをご説明します。

さらに当社は、業界をリードするセキュリティ機能統合を提供しており、ネットワークを確実かつ最適に最大限活用できるようお手伝いいたします。