米電気自動車大手テスラ(Tesla)のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)。6月中旬の株主総会では同氏に対する約560億ドル規模の報酬パッケージが承認された。
Tesla model (left) by Pool / Pool. Elon Musk (right) by Chesnot / Contributor/Getty Images.
逆張りは、トレンドを正確に見抜ければ大きな利益を得られるが、流れを読み間違えれば致命傷を負いかねないハイリスクな投資手法だ。
米金融データ分析会社エススリー・パートナーズ(S3 Partners)のデータを引用した米CNBCの報道によれば、テスラ(Tesla)株の値下がりに賭けていた空売り筋は、7月初旬の決算発表後の株価下落を受け、時価評価ベースでおよそ35億ドルの損失を出した模様だ。
空売り……ある銘柄の株価下落を予想し、証券会社から株式を借りて売却(=売りポジションを保有)し、下落した時点で買い戻し(=反対売買して売りポジションを決済し)て証券会社に株式を返却、差額を利益とする投資手法。
テスラは7月2日に第2四半期(4〜6月)の納車台数を発表。前年同期比4.8%減と、2四半期連続で前年同期を下回った。
引き続きの販売不振という結果だけを見れば、空売り投資家の見立ては正しかったと言うべきだろう。しかし、アナリスト予想を上回る可能性を想定し切れなかったことまで含めれば、判断は誤っていたもしくは詰めが甘かった。
前出CNBCの報道によれば、ウォール��のコンセンサス予想は43万9000台。それに対し、テスラが発表した実際の納車台数は44万3956台だった。
アナリスト予想を上回った台数は数千台ながら、踏み止まったそのわずかな差が、空売り投資家にとっては手痛い不意打ちとなった。
世界販売台数が2四半期連続で減少するという絶対的にネガティブな事実にも関わらず、株式市場の反応はポジティブだった。株価は発表当日に約10%の大幅高を記録し、翌日以降も勢いは衰えず、直近(7月5日終値)では約20%まで上昇幅が広がっている。
個人投資家向けに市場分析を提供するマーケットビート(MarketBeat)によれば、テスラの空売り残高は3.30%、1億538万株(7月5日時点)。
同社のイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)は納車台数発表当日、X(旧Twitter)に連投して最新製品や自社株の動向に言及した。
うち一つは、テスラ車の高度運転支援システム「オートパイロット」「フルセルフドライビング(FSD)」の性能を誇る内容で、「一度でも使ったら、もう他の車には乗れなくなる」と自画自賛。
もう一つの投稿では、端的に「テスラ株は、私が保有するたった一つの上場銘柄」であることを明らかにした。
もちろん、マスク氏は空売りにも抜かりなく言及した。
「テスラが自動運転を完全な形で実現し、開発中の人型ロボット『オプティマス(Optimus)』が量産に至ったら、売りポジションを保有する投資家は消滅するだろう。ビル・ゲイツもその一人だ」
マスク氏のX投稿に、突如としてマイクロソフト創業者であるゲイツ氏の名前が登場するのには理由がある。
二人の関係は、次に紹介するような出来事をきっかけに、少なくとも良好と言えないものになり、その後もおそらくは復縁に至っていない。
2022年4月23日、気候変動テーマの慈善活動に関して話し合いの場を持ちたいと提案したゲイツ氏に対し、マスク氏が「気候変動問題の解決に向けて最大限の取り組みを続けてきたテスラに対して、大規模な空売りを仕掛けるあなたのような人間の語る気候変動や慈善活動など、自分には真面目に受け取る気にはなれない」と返信したやり取りが流出。
マスク氏は同日、ゲイツ氏とのやり取りを事実だと認め、なおかつその情報を流出させたのが自分自身ではないことを強調した上で、「複数のTED(=世界的講演イベントを主催する非営利団体)関係者から聞いた話では、5億ドル規模の売りポジションを保有しているとのことだった」と金額まで暴露した。
なお、ゲイツ氏が今日時点でもポジションを保有しているかどうかは不明だ。
いずれにしても、テスラの発表した納車台数は、7月23日発表予定の第2四半期決算の「前哨戦」的な位置付けだった。
結果的には株価上昇につながったものの、アナリストのコンセンサス投資判断は引き続き「ホールド(中立)」で変わっておらず、1株当たり利益(EPS)予想も1カ月前の0.59ドルから0.01ドル増えて0.60ドルと際立った変化は確認できていない。
株式ニュースサイトのマーケットウォッチ(MarketWatch)によれば、テスラのEPSは過去3四半期連続で市場予想を下回っている。また、直近の第1四半期(1〜3月)決算では、売上高が前年同期比9%の減少を記録している。