(Photo by Drew Angerer/Getty Images)
ジョン・ハスマン(John Hussman)氏は、同じ弱気派のジェレミー・グランサム(Jeremy Grantham)氏の発言を引用し、最新の投資家向けメモのタイトルを「ここから弱気相場が始まる(This Is Where You Start Bear Markets From.)」とした。
もしハスマン氏の市況判断が信じられるものなら、同氏はまったく正しい。
5月6日の市場コメントでハスマン氏は、現在の市況は事実上、過去100年のいかなる時期よりも「大きな」ピークを迎える準備が整っていると述べた。同氏は2000年と2008年のバブル崩壊を予測したハスマン・インベストメント・トラスト(Hussman Investment Trust)の社長。同氏の独自指標「クラスター近接スコア(cluster proximity score:CPS)」は、投資家センチメントと株価バリュエーション、さらにファンダメンタル、テクニカル、サイクリカルな指標を考慮したものだ。
この指標を、S&P500の推移(青)とともに、緑と赤で示したものが下のグラフ。赤はマイナス、グリーンはプラスを示している。
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赤と緑の「クラスター(グラフが密集した部分)」は通常、マーケットのピークと底に対応している。だが、ハスマン氏は完璧ではないことも認識している。
「強調しておくが、これは投資戦略あるいはタイミングツールではない。CPSは、不利なインターナル(投資家センチメントなど)期間でも非常に有利になることがある。例えば、1972年や1982年の市場低迷時がそうだった。同様に近年もときおり、有利なインターナル期間に不利になることがあった。それでも、我々の戦略の重要要素がCPSと一致するときは、注意を払うのがベストだ」
現在、CPSと一致している2つの「重要要素」とは、株価バリュエーションと投資家センチメントで、どちらも現時点では良い状況ではない。ハスマン氏はこれを、大惨事のための処方箋と捉えている。
バリュエーションを測定する方法は数多くあるが、ハスマン氏が好むのは、非金融株の時価総額とその総付加価値(基本的には総収益)の比率だ。この1年半、過去最高に向けて急回復している。
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このバリュエーション指標は、その後の12年間のS&P500のリターンを予測した素晴らしい実績があり、現在の水準は今後数十年間、S&P500の年間リターンがマイナスになることを示している。シラーPER(あるいはCAPEレシオ)および株式の時価総額とGDPの割合を見る、いわゆるウォーレン・バフェット指数など、他の一般的なバリュエーション指標も歴史的な上昇を見せている。
投資家センチメント(ハスマン氏は「マーケット・インターナル」と呼ぶ)についても、同氏は独自指標を使っている。基本的に個別銘柄の動きの「均一性」を追跡するもので、投資家の強気度を知ることができるとハスマン氏は述べた。
この指標は、下のグラフの赤線で示されている(S&P500の値動きは青)。マーケット・インターナルが概ね横ばいになるときは、通常、株式にとっては悪いニュースとなる。
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マクロ分析
ハスマン氏は、ウォール街で最も弱気な見通しを持つ人物の1人で、ここ数カ月は現在のマーケットサイクルが完了すれば、株価は60%以上下落する可能性があると述べている。
一方、ウォール街の大手銀行の多くのストラテジストは、S&P500は2024年に5000を超えると見ている。これはマクロ経済の見通しが、2023年上半期に比べて明るくなっていることが一因だ。2023年上半期は景気後退が多くのエコノミストの基本的な考え方になっていた。
だが、労働市場や消費者支出データが全体的に強さを維持しているため、米連邦準備制度理事会(FRB)はインフレを再燃させる恐れがある利下げは延期せざるを得ず、アメリカ経済が今後数年間でどのように推移するかは依然、不透明感がある。FRBが支出や借入を抑制するために高金利を長く続ければ続けるほど、景気後退リスクは高くなる。
労働市場が実際、どれほど強いかについては意見が分かれている。雇用データをもとにした予測は何度も間違ってきた。だが、ローゼンバーグ・リサーチのチーフエコノミストで、2008年の景気後退を予測したデビッド・ローゼンバーグ(David Rosenberg)氏は先週、さまざまなクライアント向け文書で、労働市場の大幅な下方修正は数カ月後に迫っていると警告した。これは、非農業部門雇用者数と、米労働統計局の企業雇用動態および四半期雇用・賃金センサスのデータの間に差異があるためだ。
もしローゼンバーグ氏の見解が正しければ、株価バリュエーションは高く、投資家のマクロ経済についての見通しは強気なことから、株価は大幅に下落する可能性がある。結果はいずれ、明らかになる。
ハスマン氏の実績
ハスマン氏はこれまでに、60%を超える株価下落や10年にわたるマイナスの株価リターンを予測して、何度も注目を集めてきた。そして、株式市場がほとんど上昇するなかでも、終末的予測を続けてきた。
ハスマン氏を、常に弱気を主張する奇妙な人物と切り捨てる前に、同氏の実績をもう一度、考慮してみよう。
- 2000年3月、テック株は83%下落すると予測、その後、テック株比率の高いナスダック100指数は2000年から2002年にかけて「ありえないほど正確に」83%下落した。
- 2000年、S&P500は今後10年、トータルリターンがマイナスになると予測、実際、そうなった。
- 2007年4月、S&P500は40%下落すると予測、その後、2007年から2009年にかけて55%下落した。
だが、ハスマン氏の最近のパフォーマンスは芳しくない。同氏のStrategic Growth Fundは2010年12月以降で約51%下落し、過去1年では10.3%下落している。ちなみにS&P500は過去1年で約26%上昇した。
ハスマン氏が発掘している弱気の証拠は増え続けており、ここ数年、同氏が予測してきた大幅な下落は2022年に正確であることが証明され始めた。確かに、今回の強気相場でまだリターンを実現できるかもしれないが、より大きな下落リスクが耐え難いほど積み重なるのはいつだろうか?
これは投資家が自分で答えを見つけなければならない問題だ。そしてハスマン氏も答えを探し続けるだろう。