11月23日から放送されるレゾナックのCMで半導体材料の開発者を演じる俳優の滝藤賢一さん。
撮影:三ツ村崇志
大手化学メーカーのレゾナックが、先端半導体の技術開発を目指しアメリカ・シリコンバレーにR&D拠点を新たに設置する。運用開始は2025年度を目指す。
11月22日に開催した半導体戦略説明会で方針を発表した。日本の企業として初、半導体の「後工程」に携わる材料メーカーとしても初めて、IntelやMicron、AMDなどの大手半導体メーカーが加盟するアメリカの先端半導体コンソーシアム「TIE」へ参画することも発表された。
実は半導体業界で「世界1位」のレゾナック
レゾナック最高戦略責任者の真岡朋光さん。
撮影:三ツ村崇志
レゾナックは、2023年1月に昭和電工と昭和電工マテリアルズ(旧:日立化成)が統合して誕生した新会社だ。半導体の製造工程は、半導体チップのもとになる円盤状のシリコンウエハーを作る「前工程」と、その後にチップを切り出して樹脂で囲ったり、端子を付けたり、全体を使える素子にするためにパッケージ化する「後工程」に分けて考えることができる。
ここ数年日本でも話題になることの多い台湾の半導体大手TSMCは、いわゆる前工程で世界的なシェアを誇る企業だ。一方で後工程の半導体材料メーカーとして世界トップの売り上げを誇っているのが、実はレゾナックだという。
同社の最高戦略責任者(CSO)を務める、真岡朋光氏は
「半導体需要は、短期的には上下動が激しい。ただ、中長期的には非常に強い成長が予測されています。2030年までには、1兆ドル(約150兆円、1ドル=150円換算)と現状の市場規模のほぼ倍近い規模感になります。その成長の牽引役となっているのはAIです。そこに使われる半導体では、当然取り扱うデータ量も増え、計算処理も高速でなければなりません。それを実現するにはレゾナックの半導体技術が不可欠だと言えると思っています」
と、世界的な需要・要求水準の高まりを支える基盤技術がレゾナックにあると指摘する。
レゾナックは、世界トップシェアを誇る半導体材料を多数保有している。
撮影:三ツ村崇志
真岡氏によると、これまでの半導体産業の現場では、前工程で「どれだけ細かく電子回路を書き込むことができるか」という視点でイノベーションが続いてきた。2年ごとに半導体の集積率が2倍になる「ムーアの法則」は、まさにこの領域の技術革新によって見出された経験則だった。
ただ、昨今の半導体産業の現場では、微細な回路を構築するには「物理的にも財務的にも、かなり難しくなってきている」(真岡氏)という。そこで次のイノベーションを起こすために注目されているのが、後工程の技術開発なのだという。複数の種類のチップを一つのパッケージにまとめて、一つの複雑なシステムを実現する「チップレット」の技術などは、注目技術の一つだ。
半導体リードユーザーと共創狙う
撮影:三ツ村崇志
レゾナックは2019年に、新川崎に次世代半導体パッケージの早期実現を目指したパッケージングソリューションセンター(PSC)を開設し、最先端の半導体パッケージの研究開発を進めていた。その上で、レゾナックでは今回、シリコンバレーに新たにPSCを新設する。
真岡氏は
「シリコンバレーには生成AIを含めたAI向け半導体や最先端のパッケージのリードユーザーが多くいらっしゃいます。そういったコンセプトリーダーや他の材料装置メーカーと共創して、コンセプト検証や人材の育成をやっていきたい」
と、GAFAMらをはじめ、現地で半導体技術を牽引する先端企業とともにオープンイノベーション的に研究開発を進ていくと狙いを語っていた。
わざわざアメリカに研究開発拠点を設置するきっかけの一つとなったのは、「コロナ禍」にほかならない。真岡氏によると、コロナ前までは新川崎にあるPSCに世界各地から多くの人が訪ねてきていたという。ただ、オンライン会議が普及したことでその数は激減。
「よっぽどのことがないと、なかなか来てくださらないようになりました。ですが、我々としてはそういった(GAFAMなどの)リードユーザーの皆さんとフェイスtoフェイスで話をしたいというニーズは強かった。このギャップをどう補おうか考えていた中で、AI向けの半導体の技術がシリコンバレーを中心に定義がされているというトレンドが見えてきた。やっぱりアメリカに行った方が良い、という思いが加速しました」(真岡氏)
Business Insider Japanの取材によると、今回の工場新設に伴う投資金額は、現在検討中。研究拠点をゼロから新設するのか、現地にある工場・研究所などを買い取って活用するのかなど、具体的な建設計画についてもまだ詳細は決まっていないという。
なお真岡氏は、研究拠点に導入される設備について「機器のレベルとしては相当ハイレベル。最先端レベルのものである必要はあると思います」とする一方で、詳細は「どんなパートナーと深い議論をさせていただくかによる」(真岡氏)としている。
レゾナックとしては今後、2023年度中に導入計画の調整を進めていき、2024年にクリーンルーム・設備を導入。2025年度には拠点の運用開始を目指している。スケジュール感から鑑みると、そう遠くはないうちに具体的な計画が示されるはずだ。
「パッケージ技術の開発スピードを加速し、技術ロードマップを2世代分前倒しする。その中にレゾナックがいるということをご認識いただければと思います」(真岡氏)