東京都立大公式WEBマガジン
2024.06.21
特集 Vol.6

「新たな次世代技術の創造 × 発信基地へ」東京都立大学日野キャンパス ―産学公連携スペースTMU Innovation Hub ―

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日野キャンパスに誕生した産学公連携スペース「TMU Innovation Hub」その機能の一つ「インキュベーションルーム」では、次世代を担うイノベーターたちが未知なる技術の創造と、新たな価値の創出に挑みます。今回は、このインキュベーションルーム入居者2名にお話をお伺いしました。

キービジュアル

新たな価値を創造するイノベーターが集結
世界を変えるダイナミズムを巻き起こす

物流における「ラストワンマイル」の自動化・省人化に挑む

内山 智晴氏
インキュベーションルームI 入居

LOMBY株式会社 代表取締役 内山 智晴氏

大学院修士課程修了後、伊藤忠商事株式会社にて航空機関連事業に従事。その後、2017年にYper株式会社を、2022年にLOMBY株式会社を立ち上げた。

遠隔操作型から自律走行型まで 都立大で自動配送ロボットの走行検証を実施

―どのような研究開発を行っているのでしょうか。

 当社では、自律走行と遠隔監視によって現場に配送員不要で24時間稼働可能な自動配送ロボットの開発を進めています。国内の労働人口が減少する中、運送業界に人以外での労働力を提供していくことが目的です。ロボットの構造設計やソフトウェア開発は自社で行い、駆動系の設計では大手自動車メーカーと連携しており、メイドインジャパンの強みを最大限に活かす開発を行っています。開発では多様な環境下での検証が重要になるため、都立大は走行検証の場と位置付け、広大なキャンパスを有効活用させていただいています。
 都立大とのつながりは、当社が東京都のTokyo 5G Boosters Project(5G技術活用型開発等促進事業)に参画し、2022年に南大沢キャンパスのローカル5G環境で遠隔操作型ロボットの実証実験を行ったことが始まりです。その後、自律走行型ロボットへのモデルチェンジを経て、2023年には遠隔監視などの検証も実施。現在は南大沢駅周辺の公道での走行検証に移行し、大手コンビニエンスストアチェーンの店舗からお届け先までの最後の区間である「ラストワンマイル」の配送を行っています。

内山 智晴氏

―インキュベーションルームでの計画を教えてください。

 日野キャンパスでは夜間走行を含めた24時間運行や耐久走行試験などの検証を進め、周辺の小売店からキャンパス内に配送する実験なども検討しています。最初から深夜帯の公道試験を行うのは監視体制の準備など負荷が大きいのですが、キャンパス内のようなクローズドな環境で先行して検証できるのは大変助かります。今後は降雪地域での走行検証なども行いながら、「屋外のどのような環境下であっても止まらずに走ること」を突き詰めていきます。本格的な商用利用に向けてクリアすべき課題はありますが、2025年の夏を目途に全国展開することが目標です。

内山 智晴氏

日本にはロボット開発に挑戦しやすい土壌がある

―都立大生との接点などはありますか。

 すでに南大沢キャンパスの学生がアルバイトをしてくれており、日野キャンパスでもお願いする予定です。例えば、ロボットと一緒に歩いて安全確保をしてもらう近接監視と呼ばれる役割や、走行検証に必要な3Dマップの整備、地域の地図作成のサポートなどを想定しています。また、今後機会があれば、関連分野で研究されている教員の方々ともコラボレーションできればと考えています。

―最後に学生へのメッセージをお願いします。

 私は大学院修了後、5年間の会社勤めを経て起業し、LOMBYは起業2社目になります。学生にとって将来に向けた選択肢は様々だと思いますが、もし起業するなら早いに越したことはないでしょう。例え失敗したとしても、それも貴重な経験になります。私だって失敗事例は豊富です。それでも、全ての経験が糧になっていますし、経験しないとわからないことも少なくありません。何よりも行動してみることが重要だと思います。
 その点、日本には自動車産業を筆頭に、ものづくり産業の土壌があります。ロボットの開発過程では何度もモデルチェンジを重ねていくものですが、そのためのノウハウが蓄積されているため、コストを抑えて開発を進めていける恵まれた環境があります。日本だからこそロボット開発に積極的に挑戦してほしいですね。

あらゆる事象をデジタル化。目指すは「世界丸ごとデジタルツイン」

庄原 誠氏
インキュベーションルームF 入居

株式会社インフォモーフ 代表取締役 庄原 誠氏

株式会社リコーやソフトウェア開発会社、医療機器ベンチャーなどを経て、2019年に株式会社インフォモーフを設立した。博士(情報科学)。

自然現象から形のない人の気持ちまでの全てをデジタルデータで記述したい

―どのような研究開発を行っているのでしょうか。

 当社では、自然現象から人間の心や行動まで、世の中の全てをデジタルデータや数値データとして記述・記録するための技術開発を進めています。社名の「インフォモーフ」には、「コンピュータ上で人格を再現すること」という意味がありますが、事業領域は幅広く、多様なフィールドを対象としたデジタルツイン*・プラットフォームの開発が目標です。デジタルツインによって何が実現可能なのか、どのような価値を社会に提案していけるのかを常日頃から探求しています。
 現時点の収益事業の一つに、建築業界向けのソフトウェア開発があります。例えば、プロジェクションマッピングによって床面に図面や設計図を映し出し、そこに取りつける資材の名称や寸法などを合わせて表示させることで、建築作業の効率化を図る技術があります。大手ゼネコンで実用化されつつあり、今後はさらなる普及を見込んでいます。
*デジタルツイン(Digital Twin)とは、現実空間の物体・状況を仮想空間上に「双子」のように再現したもの

庄原 誠氏

―インキュベーションルームでの計画を教えてください。

 カメラを通して自動で距離などを計測し、3Dマップを自動生成するためのモデリングを進めていく方針です。空間のセンシング技術が確立されれば、人が立ち入れない場所の測量なども容易になっていくと思います。ほかには、昨今、不動産情報や施設情報を閲覧する際に、平面の間取り図に加え、360度カメラで撮影されたリアルな画像を閲覧できるケースが増えていますが、それをさらに正確な距離がわかる3D画像で見られるようになる未来を想像しています。すでにカメラで心拍数を計測できる技術があるように、特別なセンサーを搭載せずとも一般的なカメラで誰もが簡単に3D画像をつくれる革新的なソフトウェア開発を進めていきたいと考えています。
 また、将来的にはAR(拡張現実)グラスやロボットといったハードウェアとの融合も進めながら、教育分野や観光分野への応用をはじめ、人々が楽しめる未来像を提示していきたいと考えています。

庄原 誠氏

総合大学のメリットを活かしながら学生とともに成長していきたい

―大学内に事業拠点を置くメリットは何でしょうか。

 現在、日野キャンパスの大学院生数名にアルバイトをお願いしています。自分とは違う学生視点への期待感は大きいですし、柔軟な考え方による思いがけない発想が研究開発を大きく前進させるケースもあります。企業理念として個の成長を重視しているので、学生の成長を間近で感じられることは純粋にうれしく、日々の励みにもなっています。
 今後はアルバイトの学生に限らず、事業と分野の近いシステムデザイン学部をはじめ、人文社会学部や健康福祉学部の先生方や学生たちとの情報交換やコラボレーションを模索しながら、総合大学のメリットを活かした研究開発を進めていきたいと考えています。

―最後に学生へのメッセージをお願いします。

 私は電機メーカーやソフトウェア開発会社、医療機器ベンチャーなどを経て起業しましたので、これまでの実体験も伝える機会を持ちたいと考えています。そこから学生がベンチャービジネスに魅力を感じたり、興味を持てたりすることがあれば、就職先の選択肢も増えますし、起業する意欲につながることもあると思います。学生がただアルバイトをするだけでなく、将来の働き方や人生設計の参考にできるような情報提供をしていきたいですね。

産学公連携スペース
TMU Innovation Hub フロアマップ(6号館1階)


フロアマップ(6号館1階)
①インキュベーションルーム
インキュベーションルームA・B(ウェットラボ仕様) インキュベーションルームI(オフィス仕様)

セキュリティが保証されたラボ仕様7室・オフィス仕様3室の計10室あります。すべて個室型のレンタルラボです。
(上)インキュベーションルームA・B (ウェットラボ仕様)
(下)インキュベーションルームI(オフィス仕様)

②イノベーションブース
イノベーションブース

学内関係者に加え、地域の企業・団体なども利用可能なセミナールームです(定員20名程度)。

③日野キャンパス 研究機器共用センター
精密計測機器室 イエロールーム クリーンルーム

クリーンルーム、精密計測機器室、特殊加工室、シールド防音測定室などに工学系の高機能かつ汎用性の高い研究機器を設置しています。
(上)精密計測機器室
(中)イエロールーム
(下)クリーンルーム

④オープンイノベーションスペース
オープンイノベーションスペース

イベントの開催等が可能なスペースで、200インチの大型スクリーンを完備しています。

⑤TMU Innovation Hub事務室
「ベンチャー起業・経営相談」相談窓口

起業をお考えの方、または起業後の経営でお悩みの方を対象に相談窓口を設置しています。どのようなお悩みであっても、まずはお気軽に窓口へご相談ください。

こんな疑問やお悩みはありませんか?

相談無料!学生歓迎!非常勤教員、講師の方もOK!

相談方法

対面またはオンライン(申し込み時に希望を記入してください)

対象者

①本法人の学生または教職員(研究生、研究員等を含む)
②本法人発ベンチャーとして認定されている企業の方

申込方法

下記ページ内のフォームに必要事項をご記入の上、申し込みをお願いいたします。
▶ベンチャー起業・経営相談窓口開設のご案内

相談員
東京都立大学管理部研究推進課 産学公連携センター兼務 インキュベーションマネージャー
近藤 幹也
近藤 幹也

前職の東京都立産業技術研究センターでは中小企業の技術支援業務を担当。技術系ベンチャーの創業や技術シーズを活用した新規事業の創出などの相談・各種助成事業の技術審査などに従事。主な対応分野は、工学系全般(メカトロ二クス・機械分野、IT関連分野、高分子材料分野ほか)、繊維関連分野、伝統的工芸品関連分野など。博士(工学)

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