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『村上隆 もののけ 京都』レポート 京都の歴史を振り返り現在を実感し、未来を考える展覧会

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2024年5月16日

『村上隆 もののけ 京都』レポート 京都の歴史を振り返り現在を実感し、未来を考える展覧会


『村上隆 もののけ 京都』レポート 京都の歴史を振り返り現在を実感し、未来を考える展覧会

 

2024年2月3日から年9月1日まで、京都市京セラ美術館 新館 東山キューブにて、「京都市美術館開館90周年記念展 『村上隆 もののけ 京都』」が開催されています。

 

日本の伝統的な絵画と新しいカルチャーを結び付け、多様な要素を取り込んで生み出される村上隆の作品は、常に最前線でアートの本質やあり方を問い続けてきました。

 

今回の展示は、国内で約8年ぶり、東京以外では初めてとなる大規模個展で、6つの空間に分かれる会場には約170点もの作品が並び、ほとんどが新作という大変豪華な内容です。伝統文化が息づく京都で、どんな作品と出会えるのでしょうか。

 

村上隆《お花の親⼦》(2020)とルイ・ヴィトンのトランクのインスタレーション

村上作品を通して、京都の街と歴史を知ることができる

会場に足を踏み入れると、岩佐又兵衛が江戸時代に描いたとされる《洛中洛外図屏風(舟木本)》をベースにした《洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip》が広がります。

 

「洛中洛外図」とは、京都の景観を俯瞰で描いた絵のことで、室町時代末期から江戸時代にかけて様々な絵師によって描かれてきました。全長約13mもの巨大な絵の中に、京の人々の日常生活が繰り広げられ、ずっと見ていても飽きません。

 

村上隆《洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip》(2023-2024/部分) © 2023-2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

村上隆《洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip》(2023-2024/部分) © 2023-2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 

向かい側の壁には、琳派の大成者である尾形光琳の作品を下敷きにした《京都 光琳 もののけフラワー》など、光琳の好んだモチーフや琳派の技法を使用した作品が並びます。

 

 

手前から、村上隆《京都 光琳 もののけフラワー​​》《京都 光琳 もののけフラワー》(いずれも2023-2024) © 2023-2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 

次の章では、暗い空間の中、四方を守護する四神(東の青龍・西の白虎・南の朱雀・北の玄武)の姿が浮かび上がります。京都はもともと四神が守る「四神相応の地」であることから生まれた作品です。

 

 

村上隆《朱雀 京都》(2023-2024) © 2023-2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 

部屋の中央には、京都の中京区にある鐘楼、六角堂をモチーフにした《六角螺旋堂》の姿が。「洛中洛外図」が京都の昼、表の姿であるとすれば、このスペースは京都の夜、裏の姿を見せてくれるようにも思えました。

 

この後も、曾我蕭白や狩野山雪、俵屋宗達といった、京都を中心に活躍した絵師の画業から着想を得て現代版にアレンジした作品や、特に左京区如意ヶ嶽の大文字送り火が有名な「五山の送り火」をキャラクター化した風景画、舞妓さんを画題にして制作した絵などが並びます。

 

京都の歴史や、京都で活躍したアーティスト、京の町を象徴するモチーフを駆使しているので、村上作品を通して京都の姿を知ることができる内容になっているのです。

 

雲⻯⾚変図《辻惟雄先⽣に「あなた、たまには⾃分で描いたらどうなの?」と嫌味を⾔われて 腹が⽴って⾃分で描いたバージョン》(2010/部分) © 2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 

村上隆《五山送り火》(2023-2024) © 2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 

DOBやたんたん坊、ゲロタン……村上ワールドの住人たちの姿が

2000年から2001年にかけて、村上隆は、日本とアメリカの各都市を巡回するグループ展『スーパーフラット(Superflat)』を企画・開催し、同時に「スーパーフラット宣言」を発表しました。

 

「スーパーフラット宣言」は、日本の伝統的な絵画表現とアニメ・漫画・ゲームに代表される大衆文化を結びつけ、戦前から戦後に至る日本人の感性や社会、さらには経済・政治・宗教をフラット(平ら)に捉え、あらゆる手法を用いて創作活動全体に取り込むことを指します。

 

村上隆《Superflat 2024》(2023-2024/部分) © 2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 

村上隆がキャリアを代表するキャラクター「DOB」を生み出したの は、およそ30年前のこと。成熟しない日本社会や戦後の日本が示した「モドキ文化」などを象徴するDOBは、「スーパーフラット」を体現しつつ、時にかわいらしく、時には不気味な姿で村上作品に登場してきました。本展ではそんなDOBの目まぐるしい変容と、時代を超えた活躍を確認することができます。

 

 

左から、村上隆《レインボー》(2023-2024)、《And Then 2024​​》(2023-2024) © 2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 

村上隆《727の誕生​​》(2023-2024) © 2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 

ほかにも、DOBを化け物にしたような「たんたん坊」、村上の極限の自画像である「ゲロタン」など、村上の生み出したキャラクターが至る所に現れ、まさにモノノケのような姿を晒しています。伝統的な絵画の中に彼らが現れることによって、新たなストーリーが生まれていく様を実感できるでしょう。また、時代を映し出す彼らの不穏な空気に、疫病や戦争などといった世界規模の災厄の予兆を見出すこともできるかもしれません。

 

村上隆《772772​​》(2015/部分) © 2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 

村上隆《不思議の森のDOBくん​​》(1999/部分) © 2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 

最新作の紹介や、作家の思考が伺える展示

本展では、トレーディングカードとして制作した作品の絵や、最初期の作品をNFT(非代替性トークン)の考え方を通して絵画や立体としたものも。伝統を踏まえつつ現在の流行などを見据えながら、独自の視点で未来に向けた作品づくりを行う姿勢を確認することができます。

 

 

村上隆《Murakami.Flowers Collectible Trading Card 2023​​》(2023-2024/部分) © 2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 

左から、村上隆《Murakami.Flowers Collectible Trading Card レッドドラゴン​​》(2023-2024/部分)、《Murakami.Flowers Collectible Trading Card ブルードラゴン》(2023-2024/部分) © 2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 

左から、村上隆《CLONE X �� TAKASHI MURAKAMI #6597 Lonesome Cowboy》、《CLONE X × TAKASHI MURAKAMI #19042 Hiropon​​》(いずれも2023-2024) © 2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 

制作過程や展示開催時の資料などが展示されているのも見逃せません。普段は目にすることのない、思考の過程や試行錯誤といった裏側を見て取ることができる、得難い機会です。類する仕事に従事している人や、これから目指す人にとっても参考になると思います。

 

 

© 2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 

村上隆のキャラクターが、会場内や、時には作品内に登場して説明を行っているのも本展の特徴の一つ。パネルや作中で語られる制作の経緯や日本におけるアート界の問題点、ふるさと納税制度を活用したエピソードなどは赤裸々で驚かされます。常に第一線で戦い続けながら「カイカイキキ」という会社を率いる作者が語ることによる説得力や切実さが滲んでおり、事情を知った上で鑑賞すると、展示の位置づけや意味が違ってくるようにも思います。

 

 

村上隆《四季 FUJIYAMA​​》(2023-2024/部分) © 2024 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

 

伝統文化が息づく京都で開催中の『村上隆 もののけ 京都』。村上作品を通して京都の歴史を振り返り、日本のアート事情の現在を実感し、未来に向かって考えることができる貴重な機会をお見逃しなく。

 

文=中野昭子

写真=新井まる

 

【展覧会概要】

京都市美術館開館90周年記念展「村上隆 もののけ 京都」

会期:2024年2月3日(土)~9月1日(日)

会場:京都市京セラ美術館(京都市左京区岡崎円勝寺町124)

開館時間:10:00~18:00(最終入場は17:30)

休館日:月曜休館、ただし祝日の場合は開館

https://takashimurakami-kyoto.exhibit.jp/

 

アイコン画像:村上隆《金色の空の夏のお花畑​​》(2023-2024/部分》 



Writer

中野 昭子

中野 昭子 - Akiko Nakano -

美術・ITライター兼エンジニア。

アートの中でも特に現代アート、写真、建築が好き。

休日は古書店か図書館か美術館か映画館にいます。

面白そうなものをどんどん発信していく予定。