6月中旬、クロワゼット大通りは交渉や取引で大賑わいだった。しかしカンヌライオンズに集まる多くの大手エージェンシーは、こうした新規クライアントの獲得と同じくらいに既存のクライアントとの関係強化に多くの時間を割いた。
フランスのメガエージェンシーであるピュブリシスグループ(Publicis Groupe)はこのカンヌライオンズでの1週間を使って、自社のAI能力をアピールし既存のクライアントにこの分野への投資拡大を促した。
同社で最高戦略責任者を務めるカーラ・セラーノ氏は、「同社クライアントはAIをどう使えばよいのか少しばかり混乱しているようなので、我々は彼らの方向を変えようとしている」と話す。同氏は米DIGIDAYの取材に対し、ピュブリシスはジェネレーティブAIを活用した制作費の削減よりも、もっと踏み込んだAIソリューションに力を入れる考えだと語った。
既存クライアントとの関係強化に関する2つの戦略
この戦略には2つの目的がある。1つ目はライバルを唸らせ、リヴィエラでの誇張や嘘八百を暴くことだ。カンヌライオンズ参加者は「BSボット(BS Bot、デタラメ検出ボット)」というアプリを活用した。これは何かと分かりにくいAIによるセールストークを平易な英語に翻訳できる。
そして2つ目は、詮索好きな目や耳から離れた場所で進められる。カンヌライオンズに出席するピュブリシスの幹部たちは、同グループのグローバルチーフソリューションアーキテクトを務めるスコット・ハゲドーン氏の指揮の下、リヴィエラの拠点において既存のクライアントとの30を超える非公式会合に臨んだという。
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6月中旬、クロワゼット大通りは交渉や取引で大賑わいだった。しかしカンヌライオンズに集まる多くの大手エージェンシーは、こうした新規クライアントの獲得と同じくらいに既存のクライアントとの関係強化に多くの時間を割いた。
フランスのメガエージェンシーであるピュブリシスグループ(Publicis Groupe)はこのカンヌライオンズでの1週間を使って、自社のAI能力をアピールし既存のクライアントにこの分野への投資拡大を促した。
同社で最高戦略責任者を務めるカーラ・セラーノ氏は、「同社クライアントはAIをどう使えばよいのか少しばかり混乱しているようなので、我々は彼らの方向を変えようとしている」と話す。同氏は米DIGIDAYの取材に対し、ピュブリシスはジェネレーティブAIを活用した制作費の削減よりも、もっと踏み込んだAIソリューションに力を入れる考えだと語った。
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既存クライアントとの関係強化に関する2つの戦略
この戦略には2つの目的がある。1つ目はライバルを唸らせ、リヴィエラでの誇張や嘘八百を暴くことだ。カンヌライオンズ参加者は「BSボット(BS Bot、デタラメ検出ボット)」というアプリを活用した。これは何かと分かりにくいAIによるセールストークを平易な英語に翻訳できる。
そして2つ目は、詮索好きな目や耳から離れた場所で進められる。カンヌライオンズに出席するピュブリシスの幹部たちは、同グループのグローバルチーフソリューションアーキテクトを務めるスコット・ハゲドーン氏の指揮の下、リヴィエラの拠点において既存のクライアントとの30を超える非公式会合に臨んだという。
この戦略の主なターゲットは、CPGや自動車、金融サービス、製薬、ラグジュアリー業界のクライアントだ。ハゲドーン氏とセラーノ氏は会合に招待したクライアントの社名は明かさなかったが、同社の現在のクライアント名簿には自動車メーカーのステランティス(Stellantis)やイタリアの高級食品ブランドのバリラ(Barilla)、大手製薬会社のファイザー(Pfizer)らが名を連ねている。なお、ピュブリシスは2月にファイザーのために独自のジェネレーティブAIプラットフォームを発表している。
AIを取り巻く競争は激化
ChatGPTのAIビッグバンから1年半以上が経過し、クライアントにとってAIはもはやピッチの際にエージェンシーをふるいにかけるための単なる問診代わりの道具ではなくなった。匿名で取材に応じたあるメディアのピッチコンサルタントは、AIに関する真剣な議論が「今エージェンシーが実施するミーティングでは必ず行われており、当然どのエージェンシーも自分たちの能力を見せつけることに躍起だ」と話した。
また、「マーケターは懐疑的かつ慎重な心持ちであり、メディアに関しては特にそうだ」とこの人物は言い添えた。
同じく匿名で取材に応じた別のピッチコンサルタントは米DIGIDAYに対し、ピュブリシスはそのデータ力と技術力を強みに過去のピッチで勝利を重ねてきたが、ライバルたちに追い上げられつつあると語っている。
「ほかのエージェンシーが頭角を表し、追いつきつつある。すでに多くのエージェンシーが同等のテクノロジーソリューションや戦術、能力をもっており、同じレベルで売り込みをかけている」と同人物は話す。6月に発表されたフォレスター(Forrester)の調査によると、米国のエージェンシーの実に60%が何らかの形でジェネレーティブAIを利用しているという。言い換えれば、この分野における競争密度はますます濃くなっているということだ。
データ量で対抗するピュブリシス
ピュブリシスが他社との違いとして強調できる点があるとすれば、それは「データの所有権」にほかならない。ハゲドーン氏は「これまでAIが持つクリエイティブのアウトプット能力ばかりが注目されて、新たなアプリケーションを生み出すコネクテッドデータモデルの構築はおそろかにされがちだった」と付け加えた。
同氏によるとピュブリシスは、先に挙げた分野のブランド向けに開発されたいつでも市場に投入できる15のアプリケーションを発表する予定で、これはジェネレーティブAIと従来型AIの両方を使用した「アウトプット(制作物)よりもアウトカム(成果)を重視した設計」だという。
ハゲドーン氏はその一例として、買い物客の識別情報や購買習慣などのデータを大手スーパーマーケットを運営するクライアント各社から収集した最新データと連係させ、CPGブランドが需要の変動を把握できるようにするというソリューションを挙げた。これによりCPGブランドは、自社商品よりも競合他社の商品の売れ行きがよいと分かった場合に販促キャンペーンを打つなどして対応できる可能性がある。
「この2つのデータを結びつけたことはこれまでに一度もなかった。それは本来、小売企業がやることだ。CPGブランドはこれまでこのようなスピードで動くことはできなかったが、競争力を高めるためには、そうすることがますます必要になっているのだ」。
ピュブリシスは傘下のエプシロン(Epsilon)、サピエント(Sapient)、シトラスアド(CitrusAd)、プロフィテロ(Profitero)からデータを収集しており、ハゲドーン氏は同社が保有するデータの豊富さを熱心にアピールした。「我々のアプリケーションは本物だ。同社が保有する最高のデータに基づいてトレーニングされているからだ」。
ピュブリシスが既存クライアントに注力する理由
AIに絡む潜在的な著作権リスクや風評リスクを懸念するクライアントにとっては、データセットの所有権はある種の火種にもなる。「もしもクライアント、あるいは取引先のプロバイダーやパートナーがデータをレンタルしているならば、彼らは同時に知能もレンタルしているのだろうか。我々はこの点を確認する必要がある。なぜならデータがなければ、このようなものは一切役に立たないからだ」とハゲドーン氏は指摘する。
メディアセンス(MediaSense)の戦略部門でマネジングパートナーを務めるライアン・カンギサー氏は、「どのメガエージェンシーもAI関連の取り組みを加速させている」と話す。
その一方でピュブリシスは、既存のクライアントに注意を向ける特別な理由がある。フランスを拠点とする同社は、ここ数年にわたりピッチルームで連戦連勝を続け、同業他社を犠牲にしながら新規クライアントを増やしてきた。しかし、オーガニックな成長は既存のクライアントが前年よりも多くの広告費やマーケティング予算を自社で使ってくれるか否かにかかっている。さらに、既存クライアントに自社AIソリューションに対して現時点で新たに投資するよう説得できれば、将来起こるかもしれないクライアントとエージェンシーの決別危機も回避できる可能性が高くなる。
加えて上述の2人目の匿名コンサルタントによると、既存のクライアントは新規クライアントに比べてAIや技術サービスに対して好意的だという。新規クライアントからは技術料の値引きを迫られることが多く、大手エージェンシーがAIや技術的な専門知識を基に契約を勝ち取ったとしてもその部分ではほとんど利益が出ないこともあるという。新規契約の場合、「ほとんどの技術料は免除される」とこの人物は語った。
対照的に契約更新の時期を迎える既存のクライアントとの取引においては、収益を上乗せできるかもしれないと同コンサルタントは続けた。「この時期のクライアントには柔軟性があり、アップセルを狙うには良いタイミングだ。ピュブリシスにとってもこれらのAIソリューションを売り込むのに最適な相手は、言うまでもなく既存のクライアントなのだ」。
[原文:Inside Publicis Groupe’s closed-door Cannes AI push]
Sam Bradley(翻訳:英じゅんこ、編集:都築成果)
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