上位の肯定的レビュー
5つ星のうち5.0ロマンチックな成立過程の新書『中先代の乱』
2021年7月19日に日本でレビュー済み
予約して届いた本のあとがきをみると、本書は、中学生2年のとき、歴史漫画を読んで北条時行を好きになった少女が、時行について書いた本がないことに不満を持ち、自分で調べようと���意して史学科に進学し、卒業論文として書いた論文がもとになっているという。
何というロマンチックな話だろう。すぐに読むことにした。
ただ、ちょっと予習することにした。呉座先生編集の南朝本(朝日文庫)に著者の「鎌倉幕府滅亡後も、戦い続けた北条一族」という論考が入っているというので、Kindleをめくって、そちらを先に読んでみた。なるほど。これで準備完了。
なお、日本国語大辞典では、「なかせんだいの乱」は「建武二年、北条時行が鎌倉幕府の復活をはかって起こした反乱。七月に挙兵し、足利直義を破ったが、八月東上した足利尊氏の軍に敗北した」となっている。
概要
序章 鎌倉幕府と北条氏
第1章 落日の鎌倉幕府
第2章 北条与党の反乱
1建武政権の成立、2各地で起こる反乱、3北条氏が担がれる理由
第3章 陰謀と挙兵ー中先代の乱①
1西園寺公宗の謀叛、2北条時行の挙兵、3鎌倉占領
第4章 激戦と鎮圧ー中先代の乱②
1「正慶四年」、 2「中先代」が意味すること、3足利尊氏の東下
第5章 知られざる「鎌倉合戦」
第6章 南朝での活動
終章 中先代の乱の意義と影響
私的感想
〇よく知らなかった北条時行と中先代の乱について、色々と教えていただき、たいへん勉強になった。
〇北条氏を「先代」、足利氏を「当御代」と呼び、その中間にあたる時行を「中先代」と称したと考えられる。時行が北条氏や足利氏と同列に置かれたのは、短期間であっても、鎌倉という特別の土地を占領できたからと考えられている。(117頁)
〇結果的に、中先代の乱の一番大きな歴史的意義は、尊氏を鎌倉に引き寄せ、室町幕府成立と南北朝時代がはじまるきっかけとなったことである。しかし、意義はそれだけとはいえない。乱が起きた背景、その推移について、過去に十分な検討はされていない。それが本書のテーマである。むろん乱敗北後の時行の行動も重要である。
〇序章は北条氏政権史、第1章は鎌倉幕府滅亡までで、本書では前座的内容。
〇第2章が中先代の乱の前夜���に各地で起きた北条与党の反乱、目的は鎌倉幕府と北条一族の再興であったが、建武政権、鎌倉将軍府への不満も強かった。
〇第3章と第4章がいよいよ高時の遺児時行(推定7歳)のもとに結集した中先代の乱。幕府再興の挙兵だが、建武政権への武士の不満の結集という側面もある。鎌倉を占拠し、当時は「大乱」と認識され、建武政権も大きく動揺したが、東下した足利尊氏軍には連戦連敗を重ねた。鎌倉に吹いた大風の影響、連携不足、尊氏の迅速な動きに対する準備不足などが敗因としてあげられている。
〇第5章は、中先代の乱敗北の約半年後に起きた、資料の乏しい「鎌倉合戦」の解析。様々な推測、面白い。
〇第6章は時行のその後で、南朝に帰順し、北畠顕家軍に加わり、足利方と戦う。
〇著者の推定によれば、著者の憧れの人北条時行は享年25。一族再興のための戦いにその生涯を費やし、三度目の鎌倉攻撃で敗れて捕らえられ、鎌倉幕府が滅びてから20年を迎える日の二日前に処刑死した。
私的結論
〇丁寧な論証で、ちょっとむずかしくなる部分もあるが、誠実で、好感度の高い本。しかし、一般向け歴史新書本としては、もう少しエンタテインメント性を織り込んでもよいように思える。たとえば、推定年齢7歳の時行のビジュアルな描写とか・・。