上位の批判的レビュー
5つ星のうち3.0ユニクロの視点から描いた柳井正の表層
2024年4月6日に日本でレビュー済み
ファストファッションといえばユニクロだが、その歴史は以外に短い。もともとは山口の衣料品店だが、早稲田をでた柳井正が継いで大きくした会社だ。その経緯をドキュメンタリータッチで描いたのが本作だ。基本的に視点はユニクロ側に置かれており、たびたび起こる批判記事の大波には人の不幸でメシを食う不届き者といった姿勢で切って捨てている。そうしないとこうした本は格好がつかないからだし、そのくらいユニクロという会社が柳井正を擁護しないといけない事情があるということでもある。急拡大には歪が伴う。ユニクロはまだそうした歪が湧き出し続ける時代であり、それを抑えるにはトップである柳井正を守る必要があるということでもある。
本書が日経新聞編集委員の手になるというのは、つまるところそういう意味なのだ。それだけに本書の内容は山口という地方都市から世界に雄飛した大企業の成功物語という体裁をとるしかない。インタビューと過去の雑誌の記事、そして何より柳井正の著作を出典としてあげているが、なおさら中立的な事実の記述からは外れている。
読んでいるとそういえば昔、ユニクロで野菜を売っていたなと思い出す。さらに遡ると第2号店の出店は映画館の2階だったという話も出てくる。今でこそ衣料品の大量出店というイメージが強いが、意外と迷走しているのも面白い。柳井と部下たちの関係も一貫して良好とは言えない。ワンマンと映るデメリットを考えてか、一部の子飼いとの関係を演出に使う工夫も裏目に出ている。個々のエピソードが短く表面的なのは隠さざるを得ない部分がまだ多いということでもある。
今、現在、成長中の企業を描くというのは関係者が意図的に多くの情報を隠す以上、企業寄りに偏るか、アンチに偏るかのどちらかになる。どちらを面白いと思うかは読み手次第だろう。