上位の批判的レビュー
5つ星のうち3.0素晴らしかった前著「言語の本質」の実践編として、今一歩、物足りない。
2024年7月5日に日本でレビュー済み
本書は、昨年のベストセラー『言語の本質』(中公新書)を踏まえた実践編と思う。
読者の期待は著者が以下のように言うことです。
「なぜ何回説明しても伝わらないのか? それは言語の本質から来るものです」と、そして「対策としては、人は言語の本質を熟知した上で、精一杯の対処の仕方はあるものです。それが本書の実例です」と。
前著は素晴らしい理論であった、しかし、実践編としての本書は、いささか落胆である。
例えば、冒頭の事例、2024.1.2羽田空港事件の例である。一見伝わらない事例としてよさそうではある、しかしこのような海保機と管制塔との交信は「正確に伝わること」が大前提なものである。できれば機械交信に置き換えて、1ミリの誤差もないことが、前もって要請されているのだ。
ところが、言語を用いる日常のコミュニケーションでは、「正確に伝える」ことは必ずしも要請されていないし、それが真の目的でもない。前著で理論化されたように「推測(アブダクション)」が話し手と聞き手の相互に行なわれる故に、意思伝達の齟齬がおきるのである。
本書の事例としては、このコミュニケーション上の機微と言語の本質が分かる事例が欲しかった。そして、この道筋の先に見える具体的対策が欲しかった。
前著は素晴らしい理論であった、しかし、実践編としての本書は、事例選択が十分ではない。と言っても著者の責任ではない、現実はあまりに複雑なので、「適切な事例」が見つからないのであろう。本書の事例は、忙しい先生に代わり、お弟子さんか学生さんが考えたものなのだろうか? 前著の著者の理論とも合致していない事例が多い。