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日ソ戦争-帝国日本最後の戦い (中公新書 2798)
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日ソ戦争-帝国日本最後の戦い (中公新書 2798)
麻田 雅文
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26件の合計評価、レビュー付き:7
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日本から
土木屋
5つ星のうち5.0
ロシアの本性が良く書かれている
2024年6月19日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
ウクライナの今後がどうなるのか予測のために読んだ。新書ながら良くまとめられて書いてある。この手の本は多数出版されており、読むのが大変なのだが、この本は短時間で読める。安全な日本で、歴史として読んでいられる事は幸運と思っていいだろう。
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ボーン・ウイナー
5つ星のうち5.0
第二次大戦終盤、日本政府のあまりにもソ連の仲介を頼りすぎた希望的観測が破滅に導いた
2024年6月8日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
1941年(昭和16年)4月、日ソ中立条約が調印された。
その後、同年12月8日、真珠湾攻撃によって、日本は米英と太平洋戦争をはじめた。
しかし、あまりにも無謀な戦争であった。日本軍の攻勢は緒戦の間のみ、そのご太平洋の諸島を飛び石伝いに米軍に攻略され、日本は終戦の径を探り始めた。
そこで頼りにしていたのが、日ソ中立条約の相手ソ連である。ソ連が、どんなに悪辣な国かに無知な日本政府はソ連に和平の仲介を依頼する。
しかし、その数年前からアメリカのローズベルト大統領はソ連のスターリンに対日開戦を度々要請している。ソ連は生返事で、なかなかアメリカの要請に応えなかった。それは、当時ドイツと戦っていたソ連は
ドイツ・日本との2正面作戦を避けたかったからである。しかし、昭和20年5月にドイツはソ連に無条件降伏する。これで、戦線を対日一本にする条件は整った。
8月6日、アメリカは広島に原爆を投下。日本はソ連に対して、米英に対する和平の仲介依頼を加速する。
しかし、それに対するソ連の答えは8月9日の対日宣戦布告と満州における陸上部隊の一斉攻撃であった。
この日、アメリカは長崎に2発目の原爆を投下する。
あとは、満州はソ連によって暴虐限りを尽くされる。
日本は8月14日、ポツダム宣言の��諾を各国に通知。無条件降伏である。
アメリは8月15日をもって、対日攻撃を停止。日本では天皇により「終戦の詔勅」が放送される。
しかし、ソ連は対日攻撃をやめない。満州全土に対する攻撃、当時日本領土だった朝鮮に対する攻撃、更に南樺太、千島列島に対する攻撃を続ける。日本の悲劇は、当時日本は対米戦争を主体に考えており、北のソ連に対する守りは手薄になっていた。満州をはじめて、南樺太、千島列島はソ連軍の蹂躙に任され、9月2日日本政府と軍隊がソ連に対する降伏文書に調印した。
我々は一般常識として、日ソ中立条約を一方的に破棄したソ連ばかりに非があるように思いがけだが、アメリカは、ソ連に対してしつこく参戦を要請し、勝利の節は南樺太と千島列島をソ連領にすることを合意していた。これらの領土を完全に武力制圧するまではソ連は対日攻撃をやめなかったのである。
ただ、この「千島列島」は「国後・択捉」までの南千島と、それ以外の北千島とに日本は分けて考えており、南千島は歴史的にロシア領になったことは一度もない。これが日本政府の北方領土返還要求の根拠である。
ただ、ソ連は北海道の北半分も占領する意思をもっていたが、さすがにアメリカもこれを拒否した。
いずれにしても、二国間条約などまったく尊重しないソ連を最後の瞬間まで仲介役として頼りにしていた日本政府の希望的観測には、いまになってみれば只々呆れるばかりである。
更に、ソ連は手に入れた土地の収奪や婦女子に対する暴行は、一種の「報奨金」として黙認しており、
対ソ連和平交渉をした軍人・外交官を含む60万人がシベリア送りになったことはソ連の仮借なさを如実に表している。
今日、ウクライナに対する侵攻も、ソ連という国の性格をしていれば驚くべきことではないのかもしれない。
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紙魚子
5つ星のうち5.0
太平洋戦争から切り離された別個の戦争の物語
2024年6月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
太平洋戦争は昭和20年8月15日の玉音放送で終わったのではなく、8月9日に参戦したソ連はその後も攻撃を続けて、歯舞群島がソ連軍に占領されたのは9月7日だった。
本書は太平洋戦争について、ソ連の満州侵攻開始以降を日米戦争とは切り離した「日ソ戦争」という別個の戦争として捉えるとの概念を固めた上で、その推移を詳細に追った研究書だ。
最初スターリンはポツダム会議には出席したが、ポツダム宣言が出た時にはポツダムにはおらず、宣言にも署名してない。更に9月2日のミズーリ―号艦上の降伏文書調印式にもソ連は参加していない。またサンフランシスコ講和条約にも調印しておらず、未だに日露間には平和条約は締結されていない。要するに「日ソ戦争」はまだ終わっていないのだ。
本書は、太平洋戦争に置いてソ連が如何に特殊な立場に立っていたか、またその特殊性を利用して、ソ連が如何に悪辣な行動をとったかを見事に描き出している。
このソ連の「戦争の文化」は、今日のプーチンのロシアにも営々として引き継がれているという。
一方、既に敗色濃厚であるにもかかわらず、7月に出たポツダム宣言を直ちに受諾せずに逡巡し、あまつさえ、既に参戦する腹でいるソ連に講和の仲立ちを依頼するという愚かな行動をとり、その結果、二発の原爆投下とソ連の参戦を許してしまった大日本帝国の指導者たちが、如何に愚かであったことか、全く言葉も無い。
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美しい夏
5つ星のうち5.0
第二次世界大戦最後の全面戦争。帝国日本最後の戦い。そして、日本の最後の対外戦争であってほしい戦争。
2024年4月28日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
1945年8月8日にソ連の宣戦布告により始まり、9月初めに、日本の降伏とソ連軍による満州、朝鮮北部、南樺太、千島諸島の占領で終わった日ソ戦争の通史(?)新書である。
著者は2016年に『シベリア出兵』(中公新書)を刊行した人。懐かしい。
一、目次と概要
◯第1章 開戦までの国家戦略ー日米ソの角錐、第2章 満州の蹂躙、関東軍の壊滅、第3章南樺太と千島列島への侵攻、第4章日本の復讐を恐れたスターリン。
◯第1章は開戦まで、計42頁。第2章はソ連軍の満州侵攻で、計121頁あり、本書の中心。最後に朝鮮侵攻が少し。第3章は南樺太戦が中心で、後半は占守島戦と千島列島占領、計71頁。第4章は戦後とシベリア抑留で、計13頁で終わってしまう。
二、私的感想
◯計290頁。よくまとまっていて、読みやすい歴史新書本と思う。
◯引用の一つ一つに、史料番号ではなく、きちんと史料名、書籍名が書かれているのが読者に親切であり、史料、記録者への敬意を感じさせる。一方、証言者の��ライバシーの観点から、論題名を削り、書籍名だけ載せている引用史料もある。
◯温厚な(不適切ご容赦)本である、と思う。日ソ戦争は日本にとってはあまりにも悲惨な戦争であったので、日本人の情念・思考の方向が特定の方向に向きやすいと思うが、厚くない本の中で、一応、様々な立場、要素、背景等が簡潔に記述されている。
☆たとえば、スターリンはなぜ北海道への��陸作戦を諦めたのか、という重要論点については、3つの説、①それまでの日本軍の奮戦が、北海道の占領を防いだ。②ソ連による朝鮮北部と全千島列島の占領をアメリカが認めたので、妥協した。③アメリカとの関係悪化を恐れた。を紹介し、アメリカとの関係が受け入れられやすいが、明確に立証できる史料は存在しないとする。(226頁)
☆戦史の本なので、ソ連の勝因と日本の敗因も分析されている。敗因となると、一般読者としては、勝てるはずのない戦争だった、と思ってしまうが、本書でも、最大の敗因は、対米戦で日本の軍事力と経済は破綻していたこと、とされている。その後も敗因分析が続いていくが、これらは敗因というよりも、ア、戦争の開始を止められなかった原因、イ膨大な戦争犠牲者が出るのを止められなかった原因の解析と思われる。アの原因としては、大本営や関東軍は米国との本土決戦の準備を最優先し、ソ連の侵攻は予想していなかった。また、気づいていても、ソ連に和平仲介希望を託して、見て見ぬふりをしていた。イの原因としては、日本陸軍は将兵に戦車への肉迫攻撃や陣地の死守など玉砕を前提とした攻撃を命じ、ソ連もこれにより被害を受けながら、日本軍の降伏を容易に受け付けなかった、とされている。そして、最後に「圧倒的に不利な状況でも敢闘した日本軍の将兵は特筆に値する」と書いている。(257頁)
☆日ソ戦争の特徴は、ソ連の民間人の死傷者はゼロなのに、日本人の民間人は停戦後の死者まで含めると、約24万5千人がこの戦争で亡くなり、そのうち開拓団員らの死者は7万2千人にのぼることである。(238頁)。原因はソ連軍の蛮行、関東軍を信じたことによる避難の遅れ、集団自決になるが、関東軍が開拓民を棄てたのか否かの論点については、開戦前の関東軍には開拓民を避難される手段も残されていたが、その手段をとらなかった。しかし、関東軍にだけ責任を押し付けても全容は解明できない。満州移民を遂行した政府責任、満州の放棄を暗に指示した大本営の責任もある。何よりも、非戦闘員である開拓民や家族に無差別攻撃を行ったソ連軍の責任とする。(133頁)。
最後に満州国時代日本人が現地民に行った加害は、ソ連軍の開拓民への蛮行を相対化して不問に付す理由にはならないとする。
☆性暴力を含むソ連兵の蛮行については、8頁ほど使って解析されている。普遍的要因として、軍上層部が兵のストレス解消のはけ口として黙認、状況的要因として、日本人男性は徴兵され、警察等は武装解除され、蛮行を止める者がいなかった、構造的要因として、ソ連の男尊女卑や人権軽視の社会構造が戦時での性暴力につながったである。
☆一方、ソ連兵の弁明になりそうな記述もある。一般ロシア人は戦争に疲れていて、終戦復員を望み、いまさら日本と戦争などしたくはなかった。スターリンは日露戦争の復讐というプロパガンダで国民を煽った(240頁)
☆停戦後の民間日本人の死者の多いのも悲惨である。ソ連軍が、軍人や行政幹部を抑留してしまう一方、占領下の民間日本人の保護には無関心で放置し、暴力、飢え、寒さに苦しみ、伝染病等で死んでいった。日本が船を出して難民を帰還させることも認めなかった。(150頁、165頁)
☆民間人の自決、集団自決の多かったことも重要と思われるが、本書では自決については、検討されていない(と思う)。130頁に「追い詰められると集団自決を選ぶ「同調圧力」」とあるだけと思う。
◯各地での戦闘の実態については、詳しすぎず、簡単すぎず、戦史が得意でない読者にも理解できるように書かれていると思う。
三、蛇足
◯日ソ戦争と関連する本で、去年文庫化された『満蒙開拓団』(加藤聖文著 岩波現代文庫)、『樺太一九四五年夏』(金子俊男著 ちくま学芸文庫)の2冊が、買ってからずっと積ん読状態になっていたが、本書を読んで深く反省して読み始め、どちらも読了することができた。
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DSCH
5つ星のうち5.0
日ソ戦争の多様な側面を描出した力作
2024年4月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
日ソ戦争についてコンパクトにまとめた新書だが、典拠史料を示す注(ほとんどがソ連側史料)も付いており力の入った一冊で、巻末には資料としてヤルタ秘密協定草案(1945年2月10日付)とヤルタ秘密協定(1945年2月11日調印)も収録されている。
全体は四つの章に分かれ、第1章「開戦までの国家戦略」、第2章「満洲の蹂躙、関東軍の壊滅」、第3章「南樺太と千島列島への侵攻」、第4章「日本の復讐を恐れたスターリン」となっている。
日ソ戦争の期間は、8月8日夜の対日宣戦布告から歯舞群島の占領が完了するまでの約1ヵ月に過ぎないが(ソ連軍による北緯38度線以北の朝鮮半島占領までとすればもう少し長い)、この短時日の間に実に様々なことが起こっている。満洲方面での戦争については、残された居留民の悲惨な運命と合わせて比較的よく知られていると思うが、南樺太と千島での戦いについては必ずしも詳しく知られていないのではないだろうか。ソ連側の軍事行動が日本のポツダム宣言受諾後も続き、占領政策をも見据えたアメリカとの綱引きの中で進行したことも大きな特徴といえる(結果として、スターリンは北海道北半の占領を諦めた)。
ソ連軍による住民への無差別攻撃や略奪・性暴力などの蛮行、また戦後に行われたシベリア抑留といった問題に加え、言うまでもなく北方領土の占領は現在まで続く領土問題の起点となった。
一方、日本の関東軍は本来対ソ戦こそがその存在意義だったはずであるが、すでに南方や本土への戦力抽出で弱体化しており、戦争がはじまると作戦行動を優先して住民の保護は後回しとなった。居留民の避難にあたり(たとえ結果的にとはいえ)軍人の家族が優先されたことは、徹底抗戦の建前から一般住民に避難準備をさせなかった裏返しとも言えるが関東軍の「悪名」に駄目を押した。とはいえ日本側の問題は関東軍あるいは日本軍のみにあらず、根本はソ連の中立維持(対ソ静謐)を前提とした国家戦略そのものにあった。
本書はこうした多くの要素をバランスよく網羅し、短期間だが歴史的影響の大きい戦争の全体像を描き出すことに成功している。日ソ戦争について書かれたものはこれまで多くあり、また今後も多くの研究が行われることを期待したいが、現時点でこの戦争の全体像をつかむには最適の一冊だと思う。
ちなみに著者はほかにも『シベリア出兵』や『蒋介石の書簡外交』などの著作があり、いずれもお勧めできる。
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θ
5つ星のうち5.0
8月15日で終わらなかった戦争
2024年6月23日に日本でレビュー済み
本書は、第二次大戦の最後に起きた日ソ間の戦争を、その前の連合国軍の内幕から描き出した本である。
戦闘期間は1か月以内と短いが、民間人含む少なくない犠牲者を出し、またその後の日ソ・日ロ関係にも大きな禍根を残した。
8月15日では終わらなかった戦争を、我々は後の世代として知っておく必要があるだろう。
本書はまず、日ソ戦争に至る連合国軍内、及び日本内の動きから始まる。
連合国内では、スターリンが参戦の見返りに、大連などの中国地域の租借(実質的に植民地化)を要求していた。ローズヴェルトなどは抵抗し、大連などは自由港として保ち、モンゴルなどは中国と直接交渉という形となった。
そしてヤルタ秘密協定を結んだローズヴェルトは死に、チャーチルは下野した。原爆も開発し、アメリカはむしろソ連の関与を望まなくなった。ソ連の公式参戦要請の求めもトルーマンに拒否され、スターリンは焦り、参戦を早めた。ただし、「ソ連か原爆か」の二択は正しくなく、ソ連参戦後も、八月下旬に東京に原爆を落とす計画があったという
日本は、ソ連への仲介の希望にすがっていた。ソ連はのらりくらりと引き延ばしを行い、日本は時間を空費させられた。結局ソ連参戦になるまで降伏反対派は説き伏せられなかった(この辺は
宰相鈴木貫太郎の決断――「聖断」と戦後日本
なども詳しい)。ただし参戦時、佐藤駐ソ大使が送った電報をソ連は握りつぶした。奇襲攻撃を万一にも失敗させないための策だと著者は論じている。
満州の守りは関東軍が担うが、ソ連に仲介を頼み期待する立場から、ソ連への警戒は弱められ、部隊はどんどん南へと送られて弱体化していた。ソ連参戦の情報(兵力移動やシベリア鉄道の輸送量に基づく分析など)は1945年5月には上がってきていながら、根拠なき楽観論によってそれは退けられていた。また東京の大本営は本土決戦を主力、満州はあくまでも支戦としており、そのため積極的な攻勢は退けられて持久戦だけという立場にされた。さらに、関東軍が健在であると示さないといけないため、撤退先(通化)の拠点構築工事などは隠密にする必要がありこれも大幅に遅れた。関東軍は火力が貧弱でソ連軍に押しまくられ、寄せ集めの兵で無意味な戦車への特攻を行うような状況であった。
一方のソ連は、部隊転換や作戦構築は的確に行えたが、ドイツとの戦いがやっと終わって再び戦争ということで士気は上がりにくい(日本は中立の関係で、特に攻められていない)。そのため、一生懸命プロパガンダを流すとともに、日露戦争の復讐などに訴えた(ちなみにレーニンは、日露戦争は旧態依然のロシア帝国にダメージを与えるものとしてむしろ喜んだという)。
ソ連は、降伏したらあとは人道的に扱ったアメリカとは異なり、とにかく自身の権益確保が最重要で、そのため停戦をなかなか受け入れなかった(日本はマッカーサーに頼み込んだが、マッカーサーもソ連軍は管理しきれていなかった)。
ソ連軍の戦地での性暴力は凄惨だった。ソ連軍は、敵前逃亡を厳しく処罰する一方、勇敢にたたかったものは敵地で横暴をふるうことを咎めないという思想だった(これは現在のウクライナ侵略におけるロシア軍にも当てはまっている文化だという)。レイプは横行し、例えば日本人看護婦らを守るために、遊郭の女性を「接待」に差し出す地域もあったという。
樺太でも、丸腰の避難民を無差別攻撃するなど、残虐な攻撃がなされた。ソ連は欲しい地域を支配するまで停戦を受け入れず、そのため被害が広がったという。そしてソ連支配地域では��の後、シベリアなどの強制収容所に送り込まれ、祖国の地を踏めずに亡くなった人も多い(この辺りは
シベリア抑留 - スターリン独裁下、「収容所群島」の実像
などが詳しい)。千島列島も、日本の降伏通知が回った後のどさくさにまぎれた緊急発進だった(アメリカの作戦区域である島まで作戦対象だった)。
米ソ対立や冷戦の端緒も絡んできている。
通説ではソ連は朝鮮半島での発言権を確保するため急いで北朝鮮を占領したとされたが、ソ連は満州を優先し朝鮮は後回しだった。38度線も、ソ連が来たので慌ててアメリカ側が設けたものではなく、アメリカからソ連に委ねる旨があり、ソ連は慌てて38度以北を占領したのが実情だという。
南樺太は、もともとアメリカの方が宗谷海峡通行や東日本爆撃基地などとして価値を見出していた。ソ連は満州最優先だった(戦後労せずして手に入るという目算もあった)。
ソ連は北海道の占領さえ計画していたが、それはスターリンの野望を見抜いたトルーマンにより阻止される。しかし、千島列島はその代りに差し出された形となった(そして千島列島がどこか規定しなかったことで、北方領土問題が生じている)。しかし、千島列島からアメリカは近く、実際風船爆弾はこの地から飛ばされている。そして飛んでくるのがミサイルだったら危険だとアメリカ軍人は危惧した。
本来日本は中国国民党に降伏するはずであった。しかし、日本降伏後に満州を支配したのは共産党だった。スターリンはアメリカに向けて嘘をつき、密かに中国共産党と連携して行動をとっていた。アメリカからは無償で物資を得ておき、中国共産党には日本から押収した武器を流して恩を売り、中国国民党には債務を負わせるという「辣腕か悪辣か」ということを、スターリンはやってのけていた。
その他印象に残った記述
・日本はソ連の宣戦布告と同時に降伏した。歴史的にもまれな事態だが、ソ連は天皇の国家統治という条件が付いているという理由から降伏を拒否した。
・現在のロシアでは、戦時中のソ連の行動について「誤った行動」を広めると、高額の罰金と禁固・懲役が科される
・戦後の朝鮮半島では武装解除後、特に警察官や官吏(日本人も朝鮮人も)が襲撃される事件が横行した。逃げ出そうにも、38度線で立ち往生させられる事態となる人は多かった。
・占守島の抵抗のおかげで、ソ連は無意味な強硬策を他の島では取らず、そのために救われた命も少なくない。
・スターリンは独ソ戦では細かい戦略に口出しし大混乱となったが、日ソ戦争では口出しをしなかった
日ソ戦争という現代にまで残る禍根ながら、あまり扱われない悲劇を詳細に取り上げた本であり、本書の価値は高い。
ソ連の戦争文化は現在のウクライナ戦争にまで通じるところがあり、その意味でも読む意義はあるだろう。
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ささみ草
5つ星のうち5.0
政戦両面からソ連対日戦争の実態を手際よくまとめつつ、多面的に分析する
2024年4月25日に日本でレビュー済み
ソ連の対日参戦について、米ソの参戦交渉・関東軍の防衛計画から開戦~北海道占領断念までの経過を政戦両面から概説する。回想録など一般向けの本から研究まで膨大な蓄積があるが、本書はこれまでの通説に否定的な分析・新解釈も交えつつも、実に手際よく要点を網羅しつつ、戦況から数々の蛮行で受けた民間人の苦難までを描いている。
ソ連はドイツ降伏後、3か月内に参戦することを米国に約していた。日本の情報機関も8月中の参戦を予期していた。しかし、対米戦に転用され戦力がガタ落ちの関東軍や、ソ連の終戦仲介に望みをかけていた最高統帥部はこれらの情報を軽んじ、楽観論にすがった。開戦時には総司令官の山田乙三が司令部を離れ大連に出張する気の緩みようだった。
様々な誤算に加え、もぬけの殻状態であるにも関わらず、特攻も使って日本は北や東からのソ連軍には善戦した。しかし、西部の砂漠地帯を突進してきた主力機甲部隊にあっという間に押し込まれて敗戦を迎えた。しかも、民間人保護を一切考慮せず降伏したため、ソ連軍の暴力に直接さらされることにもなった。本書では、ウクライナ侵略にも触れつつその残虐性を非難している。
わずか2週間の戦闘期間で、朝鮮分断のほか日本でも北方領土問題、残留孤児、シベリア抑留など今日も残る戦後処理問題の多くが確定した。それらの問題を理解する上で、発端となるソ連対日戦争を知ることは重要だが、あまりに蓄積が膨大であり、概要を把握しずらかった。日ソ戦争だけに焦点を定めて、近年の研究をもとに情報をアップデートした本書は、全容を知る上で適切な本だといえる。そして、わかりやすい。統帥部の誤算、関東軍後退の実態、北海道の断念、両軍の勝因敗因などの分析は、大戦に深い知見のある人にも十分な読み応えを与えるだろう。
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